会 場:衆議院第二議員会館 第一会議室
参加者:厚労省健康局 仁木総務課長他六名
「在ブラジル原爆被害者協会」
森田会長、盆子原理事他六名
「米国原爆被爆者協会」
友沢会長、倉本名誉会長
「在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会」
田村和之代表
「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」
重大阪支部長、豊永広島支部長
「日本被団協」 藤平代表、田中事務局長
「議員懇」 斉藤鉄夫事務局長ほか議員六名
「在韓被爆者問題市民会議」 中島代表ほか
開始予定の10月を目前にしても一向に実体が見えてこない「保健医療助成事業」に対し、不安を強めるブラジルとアメリカの被爆者代表は、その内容を質すべく交渉の席に着いた。
まず厚労省健康局の仁木総務課長が「海外の皆さんには法律の適用が難しいので法外措置で予算事業化した。3ヶ国を訪問した結果、実情が大きく違うことがよくわかった。国によって制度が違うのは望ましくないが、この事業は、若干違った運用も止むを得ず、各国の事情に合った事業を考えている」と述べた。
田村代表が具体案を示すよう求めたところ、驚いたことに、仁木課長は「現時点で、まだ出せるものはない」と答えたのだ。
この日は当然、現地調査の成果を踏まえた計画が出されるものと思っていたが、フタを開けてみると、配布物もなく、口頭での説明もまだできないという、予想外の事態だった。
遠路遥々、やってきた代表達の経済的体力的負担をいったいどう考えているのか。しかし時間は限られており、両国代表らは感情を抑えて、山積している問題について質していった。以下、項目ごとに整理した。
(●は編集部記)
一、保健医療助成事業のアメリカでの窓口
倉本名誉会長 「国土が広いので日本語が通じる最寄りの領事館を希望する」
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仁木課長 「在外公館の仕事の範囲というものがあって、法外事業を外務省に依頼するのは難しい」
● 従来の法律的な制限を乗り越える為の「法外措置」ではなかったのか。当事者の利便を最優先に在外被爆者特区≠作るぐらいの気概で、省庁間の協力ができないのか。
二、民間保険に加入するための保険料支援
倉本名誉会長 「ブラジル・アメリカとも、民間保険に加入せざるを得ない状況があるが、保険料の負担支援は検討されたのか」
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佐野室長 「日本の被爆者には保険料を出していないので・・・」
● 冒頭の「各国の事情に合った事業を考えている」という発言と矛盾する対応だ。
「日本の被爆者との横並び」は交渉の席でよく持ち出される。「日本の被爆者の通院に交通費は出してない」とか「世論の理解が得られにくい」等、都合のいい時だけ「横並び」が持ち出されるのだが、それは多くの場合、確かな根拠に基づいた発言というより、担当者の個人的な感覚に拠るものだ。
「被爆者に内外不平等があってはならない」とした郭裁判判決から一年半。海外の被爆者には、日本では支給される「介護手当」も「葬祭料」もない。
三、確認証の発行要件と方法について
田村代表 「『確認証』はこれまでは手帳の「仮免許証」でしかなく、利益を伴わないものだったが10月からは医療支援対象という重要な意味を持つ。ところがその申請や発行方法等の周知は全くと言っていいほどされていない。」
盆子原理事 「ブラジルでは申請してもいない確認証が一通、発行され現場は混乱している。」
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仁木課長 「現地調査旅費も計上し、4県市の担当者が出向いて情況を聞き、確認証の交付につなげていこうと考えている。」
豊永支部長 「しかし広島市の担当者は『現在山積している申請書類の審査で手一杯で、海外まで行く余裕はない』と断言している。この矛盾をどう説明するのか。」
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仁木課長 「確認証発行の対象者が一人では効率が悪い。何人かまとまれば、こちらから出向くので、要望を出してほしい」
● 手帳申請の急増に伴う事務処理の遅滞は、何度も報道されてきたのに、未だに厚労省の机上のプランと現場の実態は全くかけ離れている。発行予定数250という数はこのままでは「絵に描いた餅」になるのは必至だ。
四、相次ぐ手帳申請の「差し戻し」
森田会長 「協会設立以来のメンバーで医師会の検診も18年受けてきた会員の手帳申請が認められなかった。被爆者でないなら、検診も拒否されたはずではないか。今になって認めないのはおかしい」
重支部長「韓国の場合も約百人分の書類が返送されている。証人・証言の不備だという。日本語が話せても日本語で書類を書くことは容易ではない。配慮が欲しい。」
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仁木課長 「証人・証言の不備は、海外だけの問題ではない。戦後59年経って、日本国内でも同じ状況だ。それをどう乗り越えるか、知り合いやツテ、皆さんのネットワークを頼ってもらうしかないのではないか。」
● たとえ被爆まで数十年暮らした町でも、日本を離れて半世紀以上経てば、町名も思い出せないのは無理もない。被爆地の地図もなく、知人との連絡も途絶えた人に、いったいどんなツテがあると言うのか。65年まで国交もなかった韓国と日本。北・南米には「税金も払ってない移民が」と援護の外に追いやっておきながら、「国内も海外も同じ状況」とは、看過できない発言である。
一本の通達によって在外被爆者が被った取り返しのつかない損害と、空白期間の重さを、当の厚労省担当官たちは、全く自覚していないらしい。
五、帰国(渡日)治療の待機期間の長さ
倉本名誉会長 「ベッドの空き待ち半年では、その間に患者が死んでしまう。『もう地方自治体の予算がないので4月からにしてくれ』と言われたこともある。」
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仁木課長 「今まで渡日治療の受け入れ窓口は広島・長崎4県市に限られていたが、今年度から全国に拡大し、通達も出した。あとは皆さんの熱意次第だ」
● 「我々は良かれと思って手を尽くしているのに、それを利用しないのはそちらの怠慢だ」とでも言いたげなセリフだ。が、通達一本で、事態が改善するものではない。地方自治体、医師会、病院への働きかけが必要だ。
支援者側としても、渡日(帰国)治療受け入れの実態と希望者の要望、そして予算の使われ方を、チェックする必要がある。
六、渡日(帰国)治療の付き添い者の旅費
盆子原理事 「ブラジルからの帰国治療に、付き添いの同行を求められたが、旅費は出さないと言う。通訳には出すが、付き添いはダメ。こんな無茶な話があるか?」
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仁木課長 「付き添いは当然必要だろう。さっそく自治体窓口に連絡をしておく」
● 付き添いの旅費については、4県市の対応がマチマチなことがわかっている。通訳もできる付き添いを求めたり、「大勢で来て、助け合えば、付き添いは必要ないだろう」と裏技を示唆する自治体。その一方で、既に、付き添いに旅費を出した自治体もある。
ところがこの交渉の翌週、対広島市交渉の席で、西村課長は「 仁木課長 の発言は間違いで訂正があった」と言ったのである。
わずか数日前に厚労省の担当課長がした発言が、現場でいとも簡単に撤回されるようでは、厚労省交渉を持つ意味がない。
七、在外被爆者の実態調査を
倉本名誉会長 「10年に一度の被爆者の実態調査を海外に広げて実施して頂きたい。形式的なアンケートでなく、生の声を聞いてほしい」
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仁木課長 「国内も含めて実態調査を実施するかどうかは、まだ決まっていない」
● 倉本氏の積年の想いが籠った要望は、被団協とも協議のうえ、有意義な調査実現に向け、具体的な方策を探る必要があろう。
もちろん「在外被爆者支援全国連絡会」として坂口大臣宛てに提出した要望書の第4項「在外被爆者の実態調査」は、援護法の援護対象となった在外被爆者を正確に把握する為にも、別途早急に実施すべきだ。
最後に田村代表が、両国代表の日本滞在中に、具体的な条件について、再度協議の場を持ってほしいと要望し、厚労省側は、日程を検討し、連絡すると答えた。
このあと引き続き、同じ会場で「在外被爆者と連帯する中央集会」が開かれた。
倉本氏は「この30年間、運動をしてきて、今日のように真剣に対応されたのは初めてで、嬉しかった。しかし県市と厚労省の言うことは随分違うと感じた。」友沢氏は「在外の中で、差別がなくならない限り、問題は解決しない。心が痛む」と述べた。森田氏は「証人がいないという壁は厚い。手帳のない会員を今後どうするかという問題もある」盆子原氏は「手帳を持っている人がまず手当をもらうということが先決だ」と、それぞれ感想を述べた。
第二回厚労省交渉(5月11日)
前回、要望した再協議は、両代表に、直接
連絡が入り、支援団体が同席しない個別の交渉という形になった。両代表に連絡を取って、知り得た概要は、次のとおりである。
【アメリカ】
@保険料の援助の代わりに医療費の実費援助を考えている。例えば、治療・薬代等の領収書提出を受けて、後日支給する。支払い窓口は、日本の団体を考えている。
A予算は一人当たり年間13万円以内とする
B「確認証」の発行について、地方自治体は予算・人員とも不足の為、派遣が困難と聞いているが、厚労省には予算がある。
C付き添いの予算もあるので、各自、医師の診断書をつけて申し込んでほしい。
D検診団の予算もあり希望が少数の所でも派遣できる。折衝は北米窓口の広島県と。
Eカナダやメキシコなどの被爆者についても、わかれば連絡してほしい。
【ブラジル】
盆子原理事「広島県医師会派遣の医師団が書いた診断書を付けた手当申請が、なぜ認められないのか」
厚労省「医師法の為、日本の医師は海外で医療行為ができない。従って健診で書いた書類は診断書とは言えず、受け付けられない」
だが厚労省は日本の医師3名、ブラジルの医師2名で健診が行なわれていることも知らなかった。指導官庁が現場の実態も知らずに「法律」を盾にする。医師の署名まである書類は何なのか。今までやってきた検診は何だったのか。結局、医療支援については「10月から実施」ということ以外、何もわからなかった。踏み込んだ論議を期待していただけに残念だ。
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個別交渉の顛末を知り両代表への対応の差に疑問を持った。彼らの期待感を利用して、実は、両国、そして支援者を分断したのではないかという疑念が拭えない。また、後日、現場で“訂正”されたり、発言自体を否定されかねない。3ヶ国、支援団体と、緊密に連絡を取り合いながら、被爆者の希望を反映した支援事業を実現させたい。
(文責・河井章子)
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