廣瀬方人裁判・逆転敗訴

          ―機械的な法解釈に憤り― 


 一、廣瀬裁判 高裁判決

 二月二七日(金)午後一時十分、福岡高裁五〇一法廷は、一瞬呆然とした雰囲気に包まれた。全国から駆けつけ、廣瀬方人裁判の勝利を信じて疑わなかった支援者、約七十人からは福岡高裁・蓑田裁判長の機械的な法解釈に基づく判決に憤りの声があがった。
 判決は、国に請求の全額支払を命じた一審長崎地裁の判決を取り消し、『請求権は法律上の時効(五年)により消滅した』『手当の支給義務は国から機関委任された長崎市にある』といったものであった。
 一審の長崎地裁が、旧厚生省の四〇二号通達の問題点を指摘し『国による時効の主張は権利の濫用』とした明快な判決であったにもかかわらず、今回の福岡高裁判決は『旧厚生省が違法な解釈と認識していたわけでもない』として、時効による請求棄却を正当化してしまっているなど、不当極まりない判決だった。大阪での郭貴勲裁判や長崎の李康寧裁判の結果、在外被爆者への救済拡大の流れに逆行する判決で、機械的な法解釈ばかりが際立つものであった。

 二、廣瀬裁判の争点

 中国に日本語教師として赴任していた時に打ち切られた健康管理手当の支給を求めて長崎地裁に提訴したのは二〇〇一年九月十一日、NYテロの起きた日だった。廣瀬さんは中国から帰国し、健康管理手当が支払われていないのに気づいたが、当時は気に留めなかった。長崎の証言の会などで平和運動に関わってきた廣瀬さんは、在韓被爆者訴訟が長崎と大阪で係争中と知った。そして被爆者援護法による健康管理手当の支給が出国により打ち切られるとする国の姿勢に疑問を感じ、提訴に踏み切った。李康寧裁判の側面支援が目的だった。
 提訴から二年半、郭貴勲裁判や李康寧裁判が相次いで勝訴を勝ち取り、在外被爆者にも出国によって健康管理手当が打ち切られることもなくなり、居住国で手当が支給されるようになった。廣瀬裁判の所期の目的は達成された。しかし、廣瀬さんの請求が時効部分に係る為、裁判の争点は時効問題と、支払い義務者は国か、自治体かという二つの問題に移っていった。
 一審判決に続き高裁でも『時効適用は権利の濫用』となれば、三十年以上も救済されずにいた在外被爆者への過去の補償も可能になると考えられたからだ。しかし、残念ながら予想に反する逆転敗訴だった。

 三、上告し、闘いは続く

 在外被爆者問題は大きな前進をしてきた。しかし、放置された五十九年間の在外被爆者の苦難の歴史を顧みれば、あまりにも遅きに失した感は否めない。韓国の被爆者は毎年、百人近くが亡くなっている。ブラジルやアメリカの被爆者も高齢化が激しく、厳しい状況に置かれている。国はこの責任を受け止め、今後の被爆者援護に真剣に取り組むことにより、過去の過ちを償うべきだ。裁判に負けなければ放置するという態度を国が変えない限り、裁判での闘いを止めるわけにはいかない。一審、二審で判断が分かれた廣瀬裁判も上告審での勝利をめざして闘いを続けていかなければならない。

 四、真の問題解決はこれから

 長崎では寝たきりのために来日が出来ず、健康管理手当の受給が出来ない崔季(チェ・ゲチョル)さんが健康管理手当の申請却下処分の取り消しを求める裁判を二月二十日長崎地裁に行なった。さらに廣瀬裁判の結果を受け、崔さんが一九八〇年当時に受け取り、出国により打ち切られた手当を請求するための提訴を行なう予定だ。
 高齢化する被爆者には時間がない。一刻も早く、被爆者の内外不平等がなくなるよう支援運動を強化しなければならない。 (在外被爆者支援連絡会)