書籍紹介

『ビキニ事件の真実』を読んで



みすず書房

A5版 上製本

定価(本体2600円+税)

 大石又七さんにとってこの本は二冊目になる。一冊目と違ってこの本は被爆以後クリーニング店を経営する傍ら、長い時間をかけて考えたこと、感じたこと、知ったこと、自ら学んだことを現したものと思われる。おそらく書ききれないものがもっと多くあるだろうと推測される。

 大石さん自身は肝臓ガンから生還したが、ほとんどの多くの仲間が望むような治療も受けられず亡くなっている。残った仲間もC型肝炎により不安を抱えたまま生活している。それどころか差別・偏見の元にひっそり生活している。大石さんの気持ちには無念にも亡くなった同僚・不安を抱えながら生活する仲間の気持ちに代わってこの事実を多くの人達に伝えたい『思い』(むしろこの気持ちは『怨(ハン)』に近いものではなかろうか。)が強く感じられる。

 『ビキニ事件』は 久保山さんの死と元乗組員への見舞金で終わったのではなく、日米両政府の思惑によって幕引きを強いられたものであること。そのことは49年の時を経て少しずつではあるが明らかになってきている。このことはすでに明らかになったことではあるが、科学技術庁の出先機関であった放医研(現独立法人 放射線総合医学研究所)におけるC型肝炎ウイルス対応は(広島・長崎での被爆者を放影研と同様に)調査はしても治療はせずという立場であり、これにも国の被爆者政策の延長線があり、その責任は多くの人々の支援によってやっと勝ち取られた元乗組員の小塚さんへの海員保険の再適用ですむものではない。

 大石さんが全国各地を飛び回って小中学生を始め、平和運動や原水禁運動や労働運動にかかわる人たちにとどまらず、マスメディアにも積極的に関係を持ち、話しをする姿が浮かんでくる。とりわけ学校関係からの依頼にたいしては、船乗りの経験を活かし分かり易く話しをしている。おそらく大石さんのこの誠実で実直な人柄がこの本を作るにあたって大きな力となっていることは間違いない。

 この本で大石さんは、『被爆者』の言葉を一貫して使用している。被爆者と被曝者の違いは文字としては一文字であるが、この違いに込めた思いは強いものがあるように私には思えてならない。広島・長崎の『被爆者』と同じように『ビキニ被曝者』も認めてほしい、認めるべきだという思いではないだろうか。この思いの先は日本政府であるとともに、関心を持っている多くの人たちへの要請でもある。

 この本を多くの人々に読んで頂くことを願うとともに、大石さんが明らかにした様々な『真実』は未だに解明されてないことが多くあり、今後も更に多くの人たちが探求されることを望む。