在外被爆者団体の抗議文

坂口厚生労働大臣が発表した(12月18日)「在外被爆者に関する援護政策の概要」は、郭裁判に控訴はしても、「人道的見地」から在外被爆者へ誠意をもった施策をおこなうのではないか、と願っていた在外被爆者たちのわずかな希望を完全に打ち砕いてしまった。

在韓、在米、在ブラジルの被爆者団体は、悲痛な抗議文を同大臣に発している。以下はそのあらましである。

韓国原爆被害者協会の抗議文より
坂口厚生労働大臣 殿
あなたが去る18日に発表した「在外被爆者に関する援護政策の概要」を読んで、われわれ在韓被爆者は失望と驚愕を禁じ得ないでいます。  その理由は、去る6月1日の大阪地裁での郭貴勲裁判で、日本政府が敗訴した後に、同月15日に控訴しながら、あなたは在外被爆者を救援するために、検討会を作って検討すると約束し、8月末には韓国にまで来て、年老いた在韓被爆者を救援することに最善を尽くすと、大韓赤十字社総裁と保険福祉部長官を礼訪して約束してまわったではないですか。 そして、検討会も全員の合議で、「人道的見地から、現在の居住地によって援護の程度に差があるのは不合理であり、このときに、何か施策を考究しなければならない」と、意見しました。

検討会の議論や沸き立つ世論とはなんの関係もないかのように、あなたは、たかだか5億円の基金で在外被爆者の渡日治療を補助するというのが関の山であり、また、海外では何の効力もない被爆者健康手帳の効力を延長するというのが、この度の措置のすべてです。しかし、これまでと変わるところは何一つありません。よくご存じのとおり、われわれ在韓被爆者は、大部分が年齢が80歳に近い高齢であり、海外という遠い道のりを旅行することのできる体力の所有者ではなく、何名かの者が一度や二度の渡日治療を受けたからといって、病が治るわけでもないことは、あなたのほうがよくご存じの事実です。

したがって、われわれは、一日も早くわれわれを救援する道は、被爆者援護法を判決どおり在外被爆者にも適用することであると、一貫して要求してきました。それでも、今までは、あなたの誠意ある態度と言葉を信じて、一縷の望みをかけてきましたが、このように裏切られ、だまされ、蔑視され、差別されたとあっては、われわれすべての者は、憤りを禁じ得ません。在韓被爆者のやり場のない心情をあなたに伝えながら、筆を置きます。
01年12月19日

米国原爆被爆者協会の抗議文より
厚生労働大臣 坂口 力様
1、本当に落胆しました。6カ月間の「検討会」はなんだったか疑問です。全然本当の被爆者救済が盛り込まれていません。なぜなのでしょうか。もっと具体的に被爆者救済策を出して下さい。

2、現在も被爆者健康手帳は国内のみに有効です。なぜ法令上の改定をする必要があるのでしょうか。これの設定は海外の被爆者を否定する事です。これは絶対に止めて下さい。それより本当の人道的な支援策を考えて下さい。

3、被爆者の渡日については、日本では広島、長崎でお世話して下さるようですが、大変良いと思います。しかしこのアメリカでは一体誰が被爆者の渡日の準備や相談等をするのでしょうか。連絡、調査等大変仕事があります。現地の被爆者の幹部は年を取り、病気の人が多くて他人のお世話までどれだけ出来るか疑問です。

4、予算5億円の大半が渡日治療との事ですが、どれだけ被爆者の役に立つのですか。これで手帳の交付に役立てるとの事ですが、海外では無効の手帳がどれだけ役立つのでしょうか。

5、外国での日本国の仕事は大使館、総領事館で行っているのではないですか。それを差し置いて、現地の「民間団体」(?)がお世話するのは日米関係にも問題が起きると信じます。どうかもっと調査して下さい。私どもは外務省が関係して良い具体的な施策が実行されることを希望します。現地の総領事館は頼りになる日本国を代表する官庁と信じます。

6、平均年齢が70歳以上になり、最近病気の方が大変増加しています。本当に支援の必要な被爆者はもう長い飛行機の旅は困難です。どうかこの方々に渡日治療を治療費として上げて下さい。

7、「国外への医師の派遣」もこの提案の中にありますが、どこの国にも医師法があります。このアメリカでは日本医師による治療は全然認められません。この問題も外務省とよく相談してください。変な事から日米間に問題になって欲しくありません。
01年12月19日

在ブラジル原爆被爆者協会抗議声明より
私たち、南米被爆者一同、今回の小泉内閣の在外被爆者に対する援護法施策概要を受け、多大な失望と憤りを抱き、ここに、日本政府に抗議声明をいたします。

在ブラジル原爆被爆者協会は創立以来 年間、戦後の日本国策であった海外移住に応じ、他国にて原爆後遺症に苦しみ、歴代の関係官庁に嘆願、請願書を送りつづけ日本政府の暖かい施策を期待し今日まできました。

6月1日、大阪地裁にて郭氏の勝訴を受け、その内容に強い怒りを持っています。従来の被爆者対策に進歩の無い行政で、今迄の請願は何一つ実行されず我らの死を待っているしか、考えられません。

老齢化した南米被爆者は帰国することが不可能です。今までの帰国治療者も移住国に帰り死亡するケースが大変多いのです。 時間の空の旅はもう無理です。

現地で医療が出来るよう国際交流で、日本にて研修を終えた日系医師の多い日伯友好病院で治療が受けられるようにしてほしい。

検討会の報告を受け、在外被爆者の私たちには、小泉内閣に期待が持てない現在、残された選択は、裁判しかないのでしょうか。
平成13年12月18日