第12回総会活動方針 |
市民会議の総会も今年で13回目を迎えることになった。現在、大阪地裁で進行中の「郭貴勲(カク・キフン)裁判」に証人として出廷が予定されていた伊東壮さん(日本被団協代表理事)が、昨年の辛泳洙(シン・ヨンス)さん(元韓国原爆被害者協会会長)についで今年3月亡くなったことは、かえすがえすも残念でならない。
もう25年以上も前になろうか、軍事政権下での来日の間を縫って交流を重ねてきた辛・伊東両氏の話し合いの席で、ある時辛さんが伊東さんに『お先にどうぞ……』と被団協の“被爆者援護法制定運動”への支援を表明したことがあった。その時の辛さんにしてみれば国家補償に基づく法律ができれば、当然自分たち在韓被爆者へ影響をもたらすものと考えていたに違いない。しかし、それから四半世紀たった1995年、施行された新法「被爆者援護法」のあり様については、両氏とも運動の渦中にあって日・韓それぞれ代表の立場から最も鋭くその内実を受けとめたことだろう。
ご存知のように「郭裁判」の提訴は、国内・国外の被爆者が日本政府への共同交渉を行うようになってから5年目に、“在外被爆者への援護法適用”を求めて起こされた裁判であった。昨年末、担当弁護士との打ち合わせの時には、すでに伊東さんの病状が悪化していたことを後になって私は知った。その後は一緒に証人として予定されていた私との話し合いも機会も持てぬまま、彼は逝ってしまったのである。
在韓被爆者がかかわる裁判は、郭さんに続いて同様の趣旨で長崎地裁へ提訴した「李康寧(イ・ガンニョン)裁判」があり、さらにそれ以前から進められている強制連行された元徴用工被爆者の裁判が、現在最高裁と広島高裁とでそれぞれ係争中である。特に一審で敗訴して広島高裁に上がっている徴用工裁判が、早目に結審を迎えそうな状況もあり、その後「郭裁判」では、予定していた証人申請を取り下げて、7月14日、原告郭貴勲さんの口頭弁論が行われた(別稿参照)。弁護団としては最大の争点となっている七十四年の“局長通達”をめぐって、言を左右している国側から早く結論を引き出そうという狙いもあるものと思われる。
とはいえ現在進行中の四つの裁判はいずれも予断を許すものではない。
『戦後処理は20世紀中に解決したい』という自民党首脳の発言とは裏腹に、山積している問題は、一向に進展していないのが現状である。こうした現況を変えていくためにも、裁判対策とは別に、国会審議を進める国会議員の協力がぜひとも必要である。新旧交代が激しい昨今だが、今後私たちの運動に協力してくれる議員への働きかけを一層強めていかなければならないと考えている。
近年秋の日本被団協による中央行動の中で四団体代表(韓国・在米・在ブラジル・日本)による対政府交渉が重ねられてきたが、『これまでのような要請行動の繰り返しでは効果がないのではないか』とは米国被爆者協会名誉会長・倉本寛司さんの弁だが、この際日本被団協には、これまで以上に支援体制の強化を願わずにはいられない。
そもそも日本政府による被爆者分断政策は、実にさまざまな形で行われてきた。
在外被爆者問題でいえば、『日韓条約によって一切解決済み』とする在韓被爆者対策がその要となっていた。そうした日本政府の厚い壁に風穴をあけたのが、孫振斗(ソン・ジンドウ)最高裁判決(78年3月)で、『原爆二法の根底に国家補償的配慮がある』と認めたのである。
しかし、その後一転して、戦争被害に対する“受認論”を打ち出した基本懇意見書を支えに、旧原爆二法を一本化して作られたのが、現在の「被爆者援護法」である。そのため名称は同じ“援護法”でも、これまで日本の被爆者運動が長年にわたって求め続けてきたものとは異なるものになっている。法律の条文には、旧法同様“国籍条項”がないにもかかわらず、『日本の領域を離れると被爆者の権利は失効』と、在外被爆者を排除しているのが、現在、大阪・長崎両地裁で争われている裁判での国の言い分である。そこには原爆被害をもたらした国の責任のカケラも見当たらない。
これまで在韓被爆者問題にかかわってきて思うのは、原爆の悲惨については多くの人が認識していながら、韓国・朝鮮人の被爆の実情やその後の実情について関心が薄いことだ。これは私たちの運動としても反省しなければならないが、はたして戦後日本人にとって、“韓国・朝鮮人被爆者の存在”は忘れられたのか、それとも戦後史から黙殺されたのか、あらためて問い直す時期にきているのではなかろうか。さらにいえば、90年以降盛んにいわれるようになった「被害・加害論」とも重ね合わせて、論議を一層深めていきたいものである。
今年6月、電撃的な南北首脳会談によって、アジアに残された冷戦地域の扉が開かれつつある。北朝鮮在住被爆者の実態も少しずつ明らかにされようとしている。これまで在韓被爆者運動が切り拓いてきた課題は、やがて北朝鮮在住被爆者へも波及していくであろう。
現在進行している在韓被爆者の裁判は、一方で、国内の被爆者が要求している“国家補償”問題とかかわり、もう一方では、アジア各地の戦争被害者が提訴している“戦後補償裁判”と結び合っていることを忘れるわけにはいかない。
そうした意味からいっても、韓国・朝鮮人被爆者の存在は、単なるマイノリティーの問題ではないのである。

―郭さん最終弁論に立つ(原爆被爆者を救済する市民の会撮影)―