倉本寛司著

『在米五十年 私とアメリカの被爆者』に寄せて

広島市長 秋葉 忠利


 倉本さんにお会いしたのは今から二十年も前のことです。被爆体験をもっと多くのアメリカ人そして世界の人々に伝えるための、いわゆる「アキバ・プロジェクト」を立ち上げる準備をしていた時でした。倉本さんは、被爆者を取り巻くアメリカの状況については人一倍精通し、それ故色々な問題について親身になって心配してくれる強力な助っ人でした。アメリカに住む被爆者の生活を守るという具体的な仕事を通じて、より大きな目標である核廃絶を目指す情熱、現実的な実行力が倉本さんの魅力でしたし、今でもその魅力にいささかの衰えもありません。
 倉本さんの人生を形作っている大きな柱が、アメリカとヒロシマであることは言うまでもありません。しかも、日米両国間の最大の悲劇であるパール・ハーバーとヒロシマの「当事者」として、本来であれば両国政府や政治家、そして様々な分野における両国のリーダー達が負わなくてはならない「重荷」を、個人として果敢に背負い続けて来たのが、倉本さんでありアメリカに住む被爆者の皆さんでした。
 それが可能でだったのは、倉本さんそして在韓被爆者の皆さんが、今でも輝きの衰えないアメリカの理想主義を信じ、同時に「日本人」としてのアイデンティティーを大切にする日本社会の優しさを持ち続けたからだった、と私は考えています。
 二十一世紀を目前にして、今私たちは、先行きの見え難い時代を生きています。だからこそ私たちは、人類の歴史の中でも一番人間的なドラマを体験した人たちの知恵を尊び、心からの叫びに耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。言わば、濃霧の彼方から聞えてくる救命ボートの霧笛、そして雲の切れ間から覗く北極星を頼りに次の時代の方向を定める必要があるのです。
 倉本さんが自らの人生を振り返って、私たちの世代そして二十一世紀の若者に託する魂の叫びを著したこの本を心かお勧め致します。


株式会社 近代文芸社
東京都文京区目白台2-13-2
TEL 03-3942-0869
FAX 03-3943-1232

1500円+税