摩天楼を夢みて ★★★
(Glengarry Glen Ross)

1992 US
監督:ジェームス・フォーリー
出演:アル・パチーノ、ジャック・レモン、アラン・アーキン、ケビン・スペイシー


<一口プロット解説>
うだつが上がらず数十年も同じオフィスで働き続けている数名の中年サラリーマン達が勤める下町の不動産屋に本社から若手のヤリ手社員が派遣され、業績が悪い方の半分の社員はクビだと宣告される。
<雷小僧のコメント>
最初にまず言いたいのは、この日本語タイトルです。最近は、原題をただカタカナ書きにしただけの日本語タイトルが多いのも問題であると思うのですが、このように観客に間違った印象を与えるようなタイトルをつけるくらいなら余程カタカナ書きの方がましでしょう。恐らくマイケル・J・フォックスが主演してヒットした(でしたよね?)「摩天楼はバラ色に」(1987)と似たような題名をつけて集客効果を狙ったのかもしれませんが、これはひどい。第一に、この映画は何十年間も働き続けながらも一向にうだつが上がらぬ人々のドラマであり、摩天楼を夢見るなどという希望はとうの昔に諦めているはずなのです。映画配給会社の人々は、もう少しよく考えて日本語タイトルをつけた方がいいと考えているのは、何も私目だけではないはずです(そういう記事は、インターネット上にもたくさんありますよ)。ちょっと、観客を舐めているとしか思えないのですね。
さて憤慨するのはこれくらいにして、現代でもこういう映画が製作されるんだなとこの映画には妙に関心させられました。何せ、前段でも述べたように不動産屋のある小さな支店に何十年も勤めるうだつが上がらぬ中年のサラリーマン達が、本社から来た若手のヤリ手の社員(アレック・ボールドウイン)から、ノルマを果たせなければクビだと言われて業績を挙げるには手段を選ばない様を描いているわけですから映画全体のトーンが陰惨にならないわけがありません。そのよれよれのサラリーマン達を演じるのがジャック・レモン、アラン・アーキン、エド・ハリス等の芸達者ばかりで、そのパワーアクティングが実に素晴らしいと言えます。また、ただ一人フレキシビリティのある人物を演じているアル・パチーノも、素晴らしくパワフルな演技を見せてくれています。どうも私目は、「ゴッドファーザー」の頃の彼よりも、時にはわざとらしい程の不自然な演技をする80年代後半になってからの彼の方が妙に気に入っています。いずれにしてもこの映画は、要するに純粋な演技力が大きくモノをいう類の映画であり、SFX全盛の今日この頃の映画の中では異色な映画であると言っても何の間違いもないでしょう。上記の他にも、ケビン・スペイシー、ジョナサン・プライスが自身の実力を存分に発揮しています。
また、この映画は確かに扱っているテーマがテーマなので非常に陰惨であることには間違いがないのですが、最初から最後までモラルに関する命題をサスペンドしてしまっているので、逆に観客側も変に手前のモラル観に煩わされずに見ることが出来るという点において、非常にストレートに見ていることが出来るという良さがあるように思います。たとえば、あるシーンでアル・パチーノが自分の顧客に「悪い奴等が地獄へ行くと決まっているのか。そうではないでしょう。」とか「不倫してるって。それがどうした?」とか言うのですが、これはそういうことをするのが良いとか悪いとか言っているわけでは決してなくて、そういう判断をサスペンドしているのですね。そういう態度が良いか悪いかの判断は別として、この映画には内容的な判断ではなくて純粋な強度でこのドラマを見せようとする意図があることがこういうところでもよく分かるように思います。従って、製作者側のモラル観によって途中からストーリー自体が中途半端になったり、又は見る側のモラル観から妙な暗示を受取ったりというようなことがあまりないような映画になっているように思われます。ジャック・レモンが、事務所の管理人のケビン・スペイシー(彼も負けず劣らず節操のない人物を演じていますが)に対して状況に応じて必要以上にへりくだったり、高飛車に出たりするのを見ていれば、誰でも何かいやーーーな気分にさせられるはずだと思うのですが、この映画はあまりそういう印象を与えないのが非常に不思議に思えます。まあ、下手をするとこういう映画は、手前の境遇と重ね合わせて嫌な気分になったりすることがあるのですが、そういう印象はこの映画にはないですね。万人向けの映画でないのは事実ですが、たまにはこういう映画を見るのもよろしいのではないでしょうか。但し、日本語版ではどうなっていたのか分かりませんが、放送禁止用語が数十秒に一度は出てくるので、よい子には見せない方がよいでしょう(え!こんな映画を子供が見たがるわけがない?おっしゃる通りです)。

1999/04/10 by 雷小僧
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