将軍たちの夜 ★★☆
(The Night of the Generals)

1967 UK
監督:アナトール・リトバク
出演:ピーター・オトール、オマー・シャリフ、フィリップ・ルロワ、トム・コートネイ


<一口プロット解説>
第二次世界大戦下のワルシャワで娼婦殺人事件が発生し、現場からドイツ軍将校が立去るのが目撃される。
<雷小僧のコメント>
どうやら、あちらではこの映画の評価は七面鳥であるとか爆弾であるとかロックボトムであるとか碌な扱いを受けていないようですね。その理由の1つとしてピーター・オトールの演技に生命感がないというのがあるようです。しかし、これは完全に的をはずしているように思われます。何故なら、生命感のない人物を演じているのだから当たり前であって、わざわざそういうコメントをしても意味がないように思われるからです。確かに、ゴッホの絵の前で顔を引き攣らせて卒倒しそうになるのはあまりにもわざとらしいのは確かですが、オトールのメカニカルな所作がこの人物タンツ将軍の心の中の大きな大きな空洞を示唆しているのも間違いないところでしょう。彼は、片や機甲師団を指揮して大っぴらにワルシャワの街を壊滅させるのですが、同時にチンピラがやるような殺人をこそこそと陰で行うわけです。
それから、この映画はオトールとは全く正反対の人物を登場させます。それは、前半部の探偵役を演じるオマー・シャリフです。彼は、大量殺戮が行われている第二次大戦下で、一件の殺人事件を解決するのに全情熱を傾けるのですね。あるシーンで彼は友人のフィリップ・ノワレに、大規模に行われれば賞賛されるものも小規模で行われれば残酷なものになるというようなコメントをします。勿論殺人のことを指して言っているわけでどこかで聞いたような台詞ですが、この残酷なものに対して正義の鉄槌を下すことに命までかけるのですね。最後には、オトールに殺されてしまいます。
ところで、この映画が変わっているのは、一種のミステリー映画でありながら(探偵は前半がオマー・シャリフ、後半はフィリップ・ルロワが演じます)、第二次世界大戦下を舞台にしているというところで、プロットの一部としてヒトラー暗殺計画まで含まれています(そういうわけで、ストーリーが若干拡散気味になるのは確かです)。一番最初に見た時は、戦争映画なのかなと思っていたのですが全然違いますね。ところで、ミステリーなので犯人候補が何人か出てくるのですが、この映画の場合はそれが全員ドイツ軍の将軍(ピーター・オトール、チャールズ・グレイ、ドナルド・プレザンス)なのです。私目などは、娼婦をナイフか何かで何十箇所も突き刺して殺した犯人としては、ドナルド・プレザンスしかいないじゃないか思ってしまいましたが、それは違いました。彼は、あまりにもそういう役柄で出演することが多いからです。実は、前に述べたように犯人はオトールなのですが、この映画は若干汚い手を使って犯人は彼ではないように思わせるのですね。それは、探偵役のオマー・シャリフが独白シーンで(ルロワにだったかな?)、機甲師団を指揮して大量殺人を行っているような人物がただ一人の娼婦の殺人事件などは起こさないだろうというようなことを言うからです。けれども、この意見が間違っているのは、シャリフが通常の論理で物事を考えているからであり(この映画を見ている観客も多分同様に考えると思います)、タンツ将軍のような精神構造を持つ人にはあてはまらないのですね。要するに、カオスが支配しているような状況では、あらゆる尺度が通用しないということです。たとえば、太宰治が自殺する前年の正月に、まだ一度も着たことがない夏物の浴衣を見つけて、自殺を1年伸ばしたというような話がありました。我々通常人から見ると、夏物の浴衣と自分の命を等価に考えるようなことは、如何にも有得ないように思われます。けれども、心の中をカオスが支配している状況では、通常の論理は消失してしまうのです。だから逆に、太宰治のこのエピソードによって、彼の心中のカオスを逆に垣間見ることが出来るように思います。それと同様、オトール演じるタンツ将軍の心の中のカオス、空洞を彼の所業から伺い知ることが出来るのではないでしょうか。
最後に、トム・コートネイとジョアンナ・ペティットが出る場面のみに、モーリス・ジャールの非常に美しい音楽が流れるのですが、お聞き逃しのないように。

1999/04/10 by 雷小僧
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