雨に濡れた舗道 ★★☆
(That Cold Day in the Park)

1969 CA
監督:ロバート・アルトマン
出演:サンディ・デニス、マイケル・バーンズ、スザンヌ・ベントン


<一口プロット解説>
或る雨の日に濡れながらベンチに座っている少年を見て、サンディ・デニス演じる中年女性が自宅へ招じ入れる。
<雷小僧のコメント>
ビクトリア朝的オールドミスを演じるサンディ・デニスが、だんだんと精神的な平衡を失っていくというストーリーで、下手をすると恐ろしく暗いムードになりかねない映画です。アルトマンは、1972年にも私目の大好きな英国女優さんの一人であるスザンナ・ヨークを起用して「イメージズ」という似たような映画を撮っています。どちらも、非常にいい映画なのですが、この「雨に濡れた舗道」では性的な抑圧故のパラノイアに侵されていく中年女性を、又「イメージズ」の方ではどちらかというとスキゾフレニック(分裂症的)な女性を描いているという相違があります。アルトマンのその後の傾向を見ると、映画自体にスキゾフレニックな性格がありますので後者の方がよりアルトマンらしいと言えば言えるのですが、この「雨に濡れた舗道」でもすでにその前兆が見え隠れしています。たとえば、ストーリーとは全然関係のない登場人物同士で行っている会話を委細に渡って観客に聞かせるのですね。これは明らかに、彼の後年の1つのスタイル、すなわち相互に関連のないエピソードを並列的に等置させる手法に通じるものがあるように思われます。けれども、「イメージズ」には登場人物のみならず映画全体に既に非常に分裂症的な傾向があるのに対し、「雨に濡れた舗道」はきちっとしたストーリー展開に従っています。パラノイアを扱った映画なのでわざとパラノイアックにそうしたのかどうかは分かりませんが、やはりまだ初期の頃の映画だなという気はしますね。
ところで、前段でも述べたようにこの映画のストーリーでは映画全体がどうしようもなく暗いものになりそうであり、実際そうなっているのですが、サンディ・デニスの存在によってそういうマイナス面がかなり補われていると思います。どう見ても絶世の美人などではないのですが、この人には不思議な魅力があって、ビクトリア朝淑女の権化のような人物を演じていても映画全体を独特な魅惑で包んでいます。彼女は、雨の日の公園で見つけた少年を彼女のパラノイアックな世界に最後には完全に閉込めてしまうのですが、そういう運命もまんざら悪くはないのではないかなどというマゾヒスティックな妄想に捉えられたとしても何ら不思議ではない程です。けれども残念なことに、彼女の映画出演はそれ程多くはなく、そのつぶやくような独特のスピーチパターンと独特の動作という、他の俳優さんには見られない彼女の特徴を最大限に生かしきる前に若くして1992年に亡くなってしまいました。いずれにしても、彼女を鑑賞する為だけの目的でもこの映画を見る価値があるように思います。

1999/04/10 by 雷小僧
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