Victim ★★★

1961 UK
監督:ベージル・ディアデン
出演:ダーク・ボガード、シルビア・シムズ、デニス・プライス、ピーター・マッケナリー

奥:シルビア・シムズ、手前:ダーク・ボガード

ベージル・ディアデンは、珠玉の小品と呼べる逸品をいくつか監督しており、「Victim」もその中の一つとして数えられます。また、「Victim」は、別の意味でも大きな価値を持つ作品でもあります。というのも、映画史上初めて真っ向からホモセクシャルを取り上げた作品であると言われているからです。しかも、主演はその方面の噂にこと欠かなかったダーク・ボガードであり、余計に週刊誌的な興味が掻き立てられるところがあります。けれども「Victim」は、そのような週刊誌的で扇情的な観点からではなく、社会的観点、更にいえばコンピューター全盛の現代においては殊に大きな問題となりつつある個人のプライバシーという観点から真面目にホモセクシャルが取り上げられており、その意味ではシリアスではありながら極めて地味な印象を受けます。一方で社会の名士でもあるホモセクシャルを狙ったゆすり(すなわちホモセクシャルであることを世間に知られたくなければ金をよこせというたぐいのゆすり)を、自分の社会的立場と家庭生活が崩壊してでも告発することを決意したある弁護士(ダーク・ボガード)に関するストーリーが繰り広げられ、とにかくダーク・ボガードと奥さんを演じているシルビア・シムズのパフォーマンスが素晴らしい作品です。けれども、1つだけ注意しなければならないことは、確かに「Victim」はホモセクシャルを真っ向から取り上げているに違いないとはいえ、やはり60年代の作品であるがゆえか、ホモセクシャルとしての認知や権限に焦点が当てられているというよりは、ホモセクシャルを1つのケースとする個人のプライバシーに関する権限がそのテーマであるように見える点です。つまり、ホモセクシャルよりは抽象的なレベルに属するプライバシーの問題の方が前面化されているということです。それがゆえに、ホモセクシャルが扱われながらも、具体的な生々しさがなく、だからこそ60年代であるにも関わらずそのようなテーマを取り上げることができたのでしょう。要するに、ダーク・ボガード演ずる主人公が自分の社会的地位を投げ打っても擁護しようとしているのは、プライバシー侵害からの個人の保護に関してであり、あたかもホモセクシャルとしての権限に関してではないかのように見えるのです。その意味では、「Victim」はホモセクシャルがテーマとして扱われながら極めて正統的であり、また、ドラマとしての緊張感が全編に渡って損なわれることがなく、そこにはサスペンス的要素すら見出せます。ということで、本格的なシリアスドラマを好む映画ファンには、お薦めの作品です。


2003/08/23 by 雷小僧
(2009/02/15 revised by Hiroshi Iruma)
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