Targets ★★★

1968 US
監督:ピーター・ボグダノビッチ
出演:ボリス・カーロフ、ティム・オケリー、ジェームズ・ブラウン、サンディ・バロン

上:高速道路上の自動車を狙撃する無差別殺人犯(ティム・オケリー)

カルト的価値の高い作品であると評価できる「Targets」は、ピーター・ボグダノビッチの実質的な監督デビュー作です。ボグダノビッチの作品といえば、どちらかというと軽いタッチの作品が多いイメージがありますが、デビュー作である「Targets」は、無差別殺人をテーマとする作品であり、後の作品とはかなり異った印象を受けます。また、この作品はボリス・カーロフの最後の出演作の1つでもあり、年老いたホラー映画スターを演じている彼は、ここではまさに自らの手で自身の惜別のポートレイトを描いていると見なせるかもしれません。それは別にしても、1966年に発生したテキサスタワー乱射事件を題材とする「Targets」は、60年代の作品であるにも関わらず、動機なき無差別殺人を描いている点において、恐ろしくモダンな印象を与えます。動機なき無差別殺人が当たり前のように映画の題材とされるようになった今日においてではなく、60年代において敢えてそのようなテーマが扱われたという点で、時代を先取りしていた感があるからです。しかも、ティム・オケリーというマイナーな俳優が演じている殺人犯は、見かけは巷の好青年と変わるところがなく、何の変哲もない若者が何の理由もなく突如人を殺し始める恐ろしさが、ここでは極めて効果的に描かれています。それでは、ティム・オケリーとは異なり、その存在が映画ファンの間であまねく知られ、過去のホラー役者としてのイメージがいやでも喚起されざるを得ないボリス・カーロフはどうでしょうか。実は、この作品では、ラストの野外劇場での無差別乱射シーンまで、ティム・オケリー演ずる殺人犯が登場するパートと、ボリス・カーロフ演ずる年老いたホラー映画スターが登場するパートが互いに独立して展開され、後者が前者を取り押さえるラストシーンでようやく二人が交錯するような構成が取られています。極めてリアリスティックな作品に、ホラー映画というイリュージョンの領域に属する作品に専ら出演していたボリス・カーロフが登場すること自体に、極めて興味深いものがありますが、そのような相反する要素の共存がうまく機能しているか否かについては、日本語版DVDも発売されたようなので、是非自分の目で確かめてみて下さい。また、高速道路の脇にある建物の屋上から、まるでキジを撃つかのごとく、高速道路上を走る車に乗っているドライバーを殺人犯が狙い撃ちするシーンは恐ろしくリアルであり、自分もいつかどこかで、かくのごとく無差別殺人犯にどこからともなく狙い撃ちされるのではないかという思いが脳裏をかすめ、背中がゾクゾクします。大袈裟ではないかと思われるかもしれませんが、1966年にテキサスタワーから実際に狙い撃ちされた人々にとっては、大袈裟どころかそれが現実だったのです。恐ろしい世の中になったものです。


2003/12/27 by 雷小僧
(2009/04/01 revised by Hiroshi Iruma)
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