The Smallest Show on Earth ★★★

1957 UK
監督:ベージル・ディアデン
出演:ビル・トラバース、バージニア・マッケンナ、ピーター・セラーズ、マーガレット・ルザフォード

左から:ピーター・セラーズ、マーガレット・ルザフォード、バーナード・マイルズ
バージニア・マッケンナ、ビル・トラバース

決定的な作品がない為、日本では広くは知られていないベージル・ディアデンの監督作品で、小さくまとまった見所のある作品です。彼は、この手の小品を撮らせれば天下一品であるものの、イギリス的に恐ろしく地味な作品が多いこともあってか、日本国内で彼の作品を見かけることは稀のようです。「The Smallest Show on Earth」は、若い夫婦が突然叔父の遺産を相続することになるところからストーリーが始まります。因みに、この若夫婦を若い頃のビル・トラバースとバージニア・マッケンナが演じていますが、ご存知のように彼らは実際の夫婦であり、あの「野生のエルザ」(1966)のコンビでもあります。ところが、相続した遺産とは、実は鉄道駅のすぐ傍に建つオンボロ映画館であることがやがて判明し、何と!駅の構内を列車が通過するたびに、震度7の地震に見舞われたかのように建物全体が揺れるのです。おまけに、この映画館にはピーター・セラーズ、マーガレット・ルザフォード、バーナード・マイルズが扮する三人の老齢のスタッフがもれなく付いていて、映画館と一緒に彼らも相続するはめになります。若夫婦は、もとより映画館を復興させるつもりはないにも関わらず、ライバル映画館のオーナーに高値で売却する為に、オンボロ映画館をリオープンするふりをします。ところが、結局そのような計算高い意図がライバルオーナーに知られ、実際に映画館をリオープンせざるを得なくなります。という具合にストーリーが展開しますが、殊にビル・トラバース扮する若旦那が素人ながら何とか映画館を経営しようとして苦心惨憺する様子と、長年映画館で働いてきた3人の老齢のスタッフが抱く映画に対する思い入れが、過剰なセンチメンタルに陥ることなく面白可笑しく描かれていて実に愉快です。たとえば、喉を涸らした主人公が砂漠の中をさ迷い歩いているシーンが上映されている最中に、スタッフの一人がボイラーをがんがん炊いて客席を蒸し風呂状態にし、満を持して待機していた売り子のおねーちゃんがここを先途とアイスクリームを売りまくるシーンや、酔払ってベロンベロンになった映写技師(ピーター・セラーズ)の代わりにトーシローの若旦那が映写機を操作するもうまくいかず、映像が逆さまになったり、画面と音声がずれたり(「雨に唄えば」(1952)の同様のシーンを思い出させます)するにも関わらず、観客がむしろそれを皆して楽しんでいるシーンなど、実に傑作です。後者に関してなど、現代の短気なオーディエンスであれば暴動を起しても何ら不思議ではないはずであり、現代の映画ファンも、のどかな時代ののどかな映画ファンを少しは見習うべきではなかろうかと思わせてくれます。また、作品中の最もビューティフルなシーンとして挙げられるのが、観客が誰もいなくなった映画館の中で、ピアノ伴奏師(マーガレット・ルザフォード)の弾くピアノに合わせて3人の老スタッフが古いサイレント映画に見入っているシーンであり、このシーンではノスタルジックな雰囲気がこれ以上ないほど見事に醸し出されています。正直いえば、老スタッフの一人(バーナード・マイルズ)が映画館に火をつけてから後のラストの展開がイマイチな印象を受けるとはいえ、「The Smallest Show on Earth」は、映画を一本一本大切に見ていた頃のほのぼのとした雰囲気がしみじみと伝わってくる、映画ファン必見の実に味わい深い作品であると評価できます。尚、クルーゾー警部に扮する遥か以前のピーター・セラーズが老齢のスタッフの一人として老けメイクで登場しますが、実際には彼はこの頃、まだ30才くらいだったはずであり、既に当時から一種の怪優であったことが分ります。


2001/12/22 by 雷小僧
(2009/01/14 revised by Hiroshi Iruma)
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