Genevieve ★★☆

1953 UK
監督:ヘンリー・コーネリアス
出演:ダイナ・シェリダン、ジョン・グレグソン、ケネス・モア、ケイ・ケンドール

左から:ケネス・モア、ケイ・ケンドール、ジョン・グレグソン、ダイナ・シェリダン

自動車レースを題材とする映画は数限りなくあれど、「Genevieve」ほどゆったりとしたペースでストーリーが展開し、全てに渡ってのどかな印象を受ける作品は見あたりません。自動車レースをテーマとする映画がゆったりとしていると言えば、形容矛盾ではないかと思われるかもしれませんが、そもそも、自動車レースであるとはいえ、ジョン・グレグソンとケネス・モア演ずる友人同士が個人的に金を賭けてレースをするだけの話なのです。しかも、彼らが運転する「自動車」とは、いわゆるクラシックカーであり、もともとレースをする目的自体が、優雅なクラシックカーを路上で実際に走らせて人々に愛でて貰う為でもあるのです。ルートは、ロンドンから伝統的な海浜の保養地ブライトンまでで、牧歌的な雰囲気が見事に伝わってきます。タイトルの「Genevieve(ジェネビーブ)」とは、ジョン・グレグソンが運転するクラシックカーの愛称であり、彼は最終的にこの愛車を賭けてケネス・モア演ずる相棒とレースをするのです。それにしても、自動車レースが題材であるにも関わらず、ストーリー進行は極めてスローであり、いかにも50年代の作品であるような印象を受けます。その点がまた心地よい作品でもあり、公開当時イギリスではかなり好評を博したそうです。勿論、50年代のオーディエンスに受けたからといって、現代のオーディエンスの嗜好にも必ずやマッチするというわけではありませんが(というよりも恐らくマッチしないでしょう)、当時映画に何が期待されていたかが朧げながら分かるのも確かです。何しろ、「Genevieve」のコメディ映画としての白眉は、自動車レースそのものよりも、往路と復路の折り返し地点となるブライトンでの滞在シーンにあると言ってもよく、その中にはオンボロ宿屋のおかみとダイナ・シェリダンのやり取り(彼女がオンボロ宿屋についてあまりにも激しく文句をつけるので、滞在客の一人が「おやまあ、あれはアメリカ人かい?」と呟くのが可笑しい)や、ナイトクラブでケイ・ケンドールが突然トランペットを豪快に吹き始めるシーンなどがあります。ことに後者には感心させられるところしきりで、現実世界にしろ映画の中でにしろ個人的に女性がトランペットを豪快に吹きまくるシーンは見たことがないこともあり、いつも唸らされます。一曲目はバラード調のスローな曲ですが、2曲目は超絶技巧を要するジャズナンバーで、本当に本人が吹いているのかと思えるほどです。自動車レースがテーマの作品であるとはいえども、見ているオーディエンスまでがのどかな気分にさせられる、今どきの言葉でいえば癒し系の映画とでも称せるでしょう。もともと、ヒーリングという用語がわざわざ使用される必要がないゆったりとした時代に製作された作品なので、現代における効用は抜群かもしれません。


2002/10/19 by 雷小僧
(2008/12/24 revised by Hiroshi Iruma)
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