マシンガン・シティ ★☆☆
(The St. Valentine's Day Massacre)

1967 US
監督:ロジャー・コーマン
出演:ジェーソン・ロバーズ、ジョージ・シーガル、ラルフ・ミーカー、ブルース・ダーン

右:ジェーソン・ロバーズ演ずるアル・カポネ

60年代に公開されたロジャー・コーマン作品の1つですが、当時彼のトレードマークであったカルトホラー映画ではありません。原題が示すように、禁酒法時代のシカゴで繰り広げられる、セントバレンタインデイの大虐殺に至るギャング同士の抗争を扱った作品です。興味深い点は、やはり監督がロジャー・コーマンであることであり、それまではカルトホラー映画を得意としてきた彼が、どのようにギャング映画で手腕を発揮するかが大きな見ものです。さてその出来具合はというと、これが悪くありません。彼が監督すると、ひょっとするとギャング映画バージョンのマカロニウエスタンのごとき鵺のような作品が出来上がるのではないかというこちらの勝手な予想をものの見事に裏切って、意外や意外彼にしてはかなり正攻法の作品に仕上がっています。まず第一に、禁酒法時代の物騒なシカゴの街の様子がなかなか見事に捉えられています。確かに、血で血を洗う復讐劇が展開されているだけに、いかにも消化不良を起こしそうなマカロニウエスタン的な素材がぎっしり詰まっているとはいえ、マカロニウエスタンが西部劇の似ても似つかぬ代用品であるのと同じ意味合いにおいて、「マシンガン・シティ」はギャング映画の似ても似つかぬ代用品であるとは決していえない正統的なギャング映画であると評価できます。殊にセントバレンタインデイでギャング達が虐殺される日の描写は優れており、雪の舞い落ちるビューティフルな光景の中で血腥い事件が発生する一連のシーケンスは「マシンガン・シティ」のハイライトとして実に見事な演出がされています。但し、気にかかるのはキャストに関してであり、ジェーソン・ロバーズのアル・カポネはギリギリOKであったとしても(彼はハンフリー・ボガートに若干似ていますがあまり重さが感じられる方の俳優さんではなく、また写真でよく知られたカポネの容貌と違い過ぎます)、ジョージ・シーガル演ずるチンピラはどうもピンと来ません。ロマンティックコメディをメインテリトリーとする70年代の彼のキャリアを知っているが故かもしれませんが、いずれにしても、たとえば酒屋のオヤジをいびり倒す冒頭のシーンなどむしろ滑稽に見えて困ったものです。60年代は、007シリーズのおかげもあってか、スパイ映画が隆盛を誇っていた一方で、50年代に比べるとギャング映画がほとんど製作されなくなります。白黒で撮影されることが多く、フィルムノワールジャンルと緊密に結び付いていたギャング映画は、カラーが当たり前になった60年代になると、スタイルが全く合わなくなったということかもしれません。というよりも、カラー画像に見合った新たなスタイルが模索される必要があったというべきでしょう。そして、そのような模索の結果登場するのが、あの70年代を飾る超大作「ゴッドファーザー」シリーズだったのです。「ゴッドファーザー」シリーズが、50年代までのフィルムノワール調ギャング映画といかに異なるかについては、別の機会に述べることにします。まさに、フィルムノワールギャング映画の50年代と「ゴッドファーザー」シリーズの70年代の間に横たわるギャング映画のエアポケット期に登場したのが、「マシンガン・シティ」だったのであり、この時期他にほとんどギャング映画が製作されていないことをも考慮すると、当作品がきわめて貴重であったことが分かるのではないでしょうか。


2004/10/03 by 雷小僧
(2008/11/05 revised by Hiroshi Iruma)
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