わらの女 ★★☆
(Woman of Straw)

1964 UK
監督:ベージル・ディアデン
出演:ジーナ・ロロブリジーダ、ショーン・コネリー、ラルフ・リチャードソン

左:ジーナ・ロロブリジーダ、右:ショーン・コネリー

ショーン・コネリーの悪役などいかがなものでしょう。初代ジェームズ・ボンドのショーン・コネリーが悪役を演じている姿は、あまり見かけませんが、「わらの女」での彼を見ていると実はニヒルな悪役の方が余程似合っているのではないかとすら思われます。いやはや実に憎々しげな堂に入った悪党を見事に演じ切っています。大金持ちで且つ天上天下唯我独尊の(金をしこたま持っているとそうなるのでしょう)資産家(ラルフ・リチャードソン)の莫大な遺産を巡ってショーン・コネリー演ずる悪党が陰で暗躍する作品で、若干強引過ぎる印象を受けるものの、プロットの進行が巧みで、ストーリーが意外な方向に二転三転します。とはいえ、「わらの女」の場合、意外な方向とは、単にオーディエンスにとってそう言えるのみでなく、女主人公(ジーナ・ロロブリジーダ)の観点から見ても前後の有機的関連性を損なうことなく意外性を持ってストーリーが進行するのです。たとえば、ヨットの上で既に死んでいた(正確に言えばショーン・コネリー演ずる悪党に毒殺されていた)資産家を、婚姻書類(女主人公と資産家の婚姻)が役所に受領されるまで生きていることにしようと悪党コネリーに唆され、彼女は車椅子に乗った資産家を必死になって生きているように見せかけますが、やがて殺人容疑が彼女にかかると、今度は必死になってその時車椅子に乗っていた資産家は既に死んでいたことを逆に証明しなければならなります。なぜならば、ヨットで既に殺されていたのであれば、そのヨットに乗っていた全員が容疑者になるのに対して、自宅で死んだとなれば彼女しか容疑者がいなくなるからです。このような捻りのきいたストーリー展開が実に見事な作品であり、主人公の視点からの有機的な関連性をまるで無視し、オーディエンスの視点から意外に見えさえすればよいとするプロット展開を、先が読めないストーリー展開などと称して悦に入っている昨今よく見かけるどうしようもない作品とは全然違います。ショーン・コネリーは後年になって、「理由」(1995)のようなオーディエンスを驚かすことだけが目的であるとしか思えないラストを持つ映画を製作していますが、「わらの女」に出演したことを既に忘れているのでしょうか。それはそれとして、「わらの女」は全体的にイギリス的に地味な印象を受ける作品であり、あちらで評されているようにラストシーンがイマイチである欠点もありますが、さすがはベージル・ディアデンと言いたくなる凝ったストーリー展開を持つ渋い佳作であることに間違いはありません。但し、本来イタリアの陽光が似合うラ・ロロ(ジーナ・ロロブリジーダ)は、気のせいかイギリスの暗い風景の中でいつもの輝きを失っているようにも見えます。ところでこの作品、子供の頃何度かテレビ放映で見て以来長い間見る機会がなく、海外でもほとんど入手不可能な状態が続いていましたが、MOVIE UNLIMITEDで最近ようやく手に入れることができました。けれども、予想していた通り、どうやら海賊版らしきテープが送られてきて、上掲画像を見ても分かる通り画質があまりよくありません。DVDによる、復刻が待たれます。


2002/02/17 by 雷小僧
(2008/10/27 revised by Hiroshi Iruma)
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