ペティコート作戦 ★★☆
(Operation Petticoat)

1959 US
監督:ブレイク・エドワーズ
出演:ケーリー・グラント、トニー・カーティス、ディーナ・メリル、アーサー・オコンネル

左:ケーリー・グラント、右:トニー・カーティス

50年代後半から60年代前半のコメディと云えば、ボブ・ホープやジェリー・ルイスのような専門のコメディアンが主演するコメディを別にすれば、ロマンティック・コメディが多かったわけですが、この作品にはそれらの作品とは少し異なった側面があります。勿論、ディーナ・メリル他何人かの女優さんも出演しているとはいえ、この作品の妙味は基本的にケーリー・グラントとトニー・カーティスの組み合わせにあります。ケーリー・グラントもトニー・カーティスもソフィスティケートされたコメディセンスを持っていながら専門のコメディアンではないという特徴を持ち、要するに同性の似た者同士が主演していることになります。名声という尺度で測れば当時のトニー・カーティスはケーリー・グラントの足元にも及びませんでしたが、いずれにしても同傾向のしかも同性の俳優さんを、一方を主、他方を脇としてではなく2人とも主演格で並べるケースは、このようなマイルドなコメディではそれ程多くは見られません。性別自体が自動的に役割の分化をもたらすが故に、同性でなければ同傾向の2人の俳優さんが同等の資格で主演するのはむしろ当然でしょう。それに対し、同性同傾向の俳優さんを二人並べてしまうと同じ役割の登場人物が2人同時に登場することになり、下手をするとどちらか一人が全くの冗長に見える怖れがあります。では、たとえばディーン・マーティンとジェリー・ルイスのコンビはどうなるかという疑問が湧くはずですが、コンビ解消後の二人の軌跡を見れば分かるように、この二人のパーソナリティは互いに相当異なり、それはケーリー・グラントとトニー・カーティスの間にあるパーソナリティのギャップよりも遥かに大きいように思われます。要するに、漫才のボケとツッコミのように役割が明瞭に分担されていれば問題はありませんが、ボケとボケ或いはツッコミとツッコミのコンビではまず漫才は成立しないということです。そのようなわけで、同傾向の男優を二人を並べる「ペティコート作戦」は、下手をすると焦点の定まらないヌエのようなコメディに終る可能性のあるキャスティングが行われています。しかしながら、この作品は、潜水艦を舞台とする軍隊コメディでもあり、似たもの同士の主演二人が相互に食い合う、というよりも格を考えればケーリー・グラントがトニー・カーティスを食ってしまう悲惨な結果に終わる災厄から免れています。というのも、ピンクに塗装された潜水艦をその典型例として、本来は厳格な規律が遵守されねばならない軍隊を茶化す意図がこの作品にはあり、ケーリー・グラント演ずるキャラクターとトニー・カーティス演ずるキャラクターの間のインタラクションを通じてそれが巧妙に行われている側面があるからです。要するに、食いつく明確な対象がある為に、互いに食い合う必要がないということです。かのピンクパンサーシリーズを後に監督するブレイク・エドワーズの作品なので、そのあたりのハンドリングはお手のものであったと云えるかもしれません。ところで、前半殊にそうですが、ケーリー・グラントは何か言った後「フン」というような奇妙なつぶやきを恐らくアドリブで付け加えることが時々ありますが、この作品でもそのようなケースが一度ならず見受けられます。実はこれはケーリー・グラントであるから可能であり、彼以外がそのようなことをすれば大根役者に見られるか、そもそもカットされるのが必定でしょう。このことは逆にケーリー・グラントの役者としての名声を如実に物語っているとも見なせます。


2005/05/14 by 雷小僧
(2008/10/14 revised by Hiroshi Iruma)
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