テイラー・オブ・パナマ ★★★
(The Tailor of Panama)

2001 US
監督:ジョン・ブアマン
出演:ピアース・ブロスナン、ジェフリー・ラッシュ、ジェイミー・リー・カーティス、ハロルド・ピンター

左:ピアース・ブロスナン、右:ジェフリー・ラッシュ

ストーリーとしては、いくら何でもそれはないだろうというような途方もないものなのですが、映画としては実に素晴らしい出来ですね。何せジェフリー・ラッシュ演ずる一介の仕立て屋が半ば妄想的に生み出したアイデア、すなわち折角アメリカから変換されたパナマ運河の利権を政府は再びどこぞへ売却しようとしているとか、かつて独裁者ノリエガが政権を掌握していた頃レジスタンス闘志として活躍していた組織「サイレント・オポジション」が再び立ち上がろうとしているとかいうような根拠のない情報をCIAがもろに信用してノリエガ政権をかつて打倒した時のようにアメリカが軍事介入するというような、思わずそんなアホなと言いたくなるストーリーなのですが、それが実に魅力的に語られているのです。まあ、中米は政情が不安定であるという印象が強いので(たとえばパナマはこの映画にもあるように10数年前迄はイラクのフセイン大統領やリビアのカダフィ大佐などとともに現代の数少ない独裁者の一人であったノリエガが支配していたわけであるし、サンディニスタとかコントラとかいうような言葉が今だ記憶に新しいニカラグアに至っては70年代に大地震によって首都のマナグアが崩壊した後、政情までも崩壊し政権が右に左に二転三転したりしました)このようなストーリーが飛び出してくるのかもしれません。いずれにしても、まず素晴らしいのは主演二人で、いつもの颯爽としたジェームズ・ボンドのカッコ良さをスパッと棄てて、ジョフリー・ラッシュ演ずる仕立て屋の偽情報を利用して一儲けしようと企む腹黒いスパイを演ずるピアース・ブロスナンがまず新鮮であるし、嘘が嘘を呼んで彼が嘘をついているというよりは嘘が彼をついているという態の仕立て屋を演ずるジェフリー・ラッシュが殊に素晴らしいですね。小市民的ではあるけれどもその小市民性が自分の思いも寄らない状況を生み出してしまう様子が、何やら随分と説得的なのは一重にジョフリー・ラッシュのキャラクターの故であり、ストーリーベースではそんなアホなであっても、キャラクターベースでは妙に説得力があります。それからパナマというエキゾチックな背景故か、なかなか全体的な雰囲気が素晴らしい。確かに近代的な都市であるパナマシティーの様子はアメリカの大都市と大して変わらないように見えますが、この映画の舞台であるパナマにはやはりアメリカとは何か違う雰囲気が支配しています。私目は一時期パナマに住む人とメイル通をしていたのですが(丁度ミレニアムイアーの時パナマ運河が変換されたのですが、彼はこの時パナマではダブルで目出度い年であると言ってました)、最初私目はパナマ人はきっと皆藁葺きの屋根に住んでいるのかなと本気で思っていました。まあこれは西洋人の一部が今だに日本人はちょんまげをしていると思っているのと似たようなものかもしれません。そういうわけで、私目は最初パナマシティーの写真を見た時、日本やアメリカと同じように高層ビルが立ち並んでいるのを見て目を疑ったものです。しかしこの映画を見ているとやはりパナマはパナマであって日本やアメリカとは違う国であり、ラテン系の何というかいかにも大気が濃く高温多湿で気だるそうな雰囲気がそこここに滲み出ています。しかも、その雰囲気がストーリー展開に妙にマッチしていて、たとえば空気が薄そうな北欧の国が舞台でならばこんな途方もないストーリーは冗談にでも語れないであろうなと思えるのに対し、それがパナマであるとそれがそれ程不思議にも思えなくなってくるのですね。というわけでこの映画は、2001年公開の映画ではベストの1つ(と言ってもこの年製作の映画をまだそれ程多くは見ていないのですが)と言っても良いでしょう。実は私目は、日本で公開された時即座に見ようと思っていたにも関わらず、隣の映画館にはかからなかったので結局DVDが発売された時に即買って見たわけですが、期待に違わず優れた作品です。最後に付加えますと有名な劇作家のハロルド・ピンターが役者として出演しているようですね。


2003/06/07 by 雷小僧
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