今宵かぎりの恋 ★★★
(Sweet Novemver)

1968 US
監督:ロバート・エリス・ミラー
出演:サンディ・デニス、アンソニー・ニューリー、セオドア・バイケル、サンディ・バロン

左:サンディ・デニス、右:アンソニー・ニューリー

ようやく今年(2001年)になってこのタイトルを手に入れることができました。小生の大好きな女優さんであるサンディ・デニスの代表作の1つであることを知っていたので長年捜していましたが、このたび目出度く入手できて狂喜している次第です。「今宵かぎりの恋」が再販売されたのは、キアヌ・リーブス+シャーリーズ・セロン主演のリメイク「スウィート・ノベンバー」(2001)が公開された為であることはまず間違いないでしょう。ところで、サンディ・デニスという女優さんは美人タイプでもなければスタリッシュでもありませんが、不思議な魅力がある人で、独特なスピーチパターンと独特な立居振舞いを持つ稀代の名女優であったと個人的には思っています。「今宵かぎりの恋」は、そんな彼女の魅力が最もよく活かされている作品であることに間違いありません。サンディ・デニス演ずる主人公サラが、どこか心に問題のある男どもを毎月1人ずつ自分のアパートに囲って、そんな情けない男どもの心の砂漠状態を癒すというストーリーが展開され、彼女のような育ちの良さそうなお嬢さんが一体なぜそんな怪しげなことをするのかという一種のミステリー的な隠し味もその中には含まれています。一体なぜそんなことをするかについては是非この作品を見て頂くこととして(或いは、その点を確認するだけであれば入手しやすいリメイクの方でも良いかもしれません)、重要なのは「今宵かぎりの恋」は悲喜劇であることです。悲喜劇とは、悲劇と喜劇のバランスが悪いとどっちつかずのヌエのような作品に終わる可能性が大であり、実際に「今宵かぎりの恋」では、下手をすると完璧なコメディに終ってしまう可能性も、或いは全く逆の完璧なお涙頂戴ソープオペラに終ってしまう可能性も大いにあるストーリーが繰り広げられています。しかしながら、「今宵かぎりの恋」はその点に関して実に見事にバランスが取られています。これについては、同じように繊細なハンドリングが要求される作品「愛すれど心さびしく」(1968)を同時期に監督しているロバート・エリス・ミラーの手によって、肌理細かなハンドリングがされていることも確かですが、やはりサンディ・デニスの存在が大きいように思われます。彼女は、たとえば、コミカルなセリフを口にしていても彼女独特の細かな所作で悲哀を表現したり、或いは全く逆に、シリアスなセリフを口にしていても所作はコミカルであったり、しかもそれでいて不自然に見えることのないパフォーマンスを軽々とやってのけることができるのです。つまり、サンディ・デニスという女優さんは、悲喜劇のような演ずるのが極めて困難であるジャンルに属する作品の主役でも軽々とこなせる人なのです。殊に相手役のアンソニー・ニューリーは基本的に歌手であり、悲喜劇にフィットするほどの柔軟性、多様性を持ち合わせていたとはとても考えられず、実際極めて一本調子に見えるだけに、彼女の肩にはズシリと重い責任がかかっていたものと考えられます。「今宵かぎりの恋」のサラは、まさにサンディ・デニスの為の役であったと言えるでしょう。ということで、日本にはそれ程多くはいないかもしれませんが、サンディ・デニスファンには見逃せない一本であることは確かです。ミシェル・ルグランの音楽が相変わらず素晴らしいことを最後に付け加えておきましょう。


2001/05/13 by 雷小僧
(2008/11/07 revised by Hiroshi Iruma)
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