キング・ラット ★★☆
(King Rat)

1965 UK
監督:ブライアン・フォーブス
出演:ジョージ・シーガル、ジェームズ・フォックス、トム・コートネイ、パトリック・オニール

左:ジェームズ・フォックス、右:ジョージ・シーガル

捕虜収容所を舞台にした映画は数多くありますが、「キング・ラット」はその中でもかなり毛色の変わった作品です。この手の映画では、捕えられた連合軍捕虜達が残虐なナチス或いは日本軍の支配する捕虜収容所の過酷な生活にいかに堪え抜き、いかにそこから脱走できるかというたぐいのストーリーが通常語られがちであるにも関わらず、「キング・ラット」は日本軍の捕虜収容所が舞台でありながらも、そもそも日本軍兵士が出てくるシーンそのものがほとんどありません。むしろ、メインテーマは捕えられている連合軍捕虜同士の関係を描くことにあり、第二次世界大戦中枢軸国側がいかに残虐で、いかに人非人であったかなどのようなテーマを捕虜収容所という舞台を通して語る意図が全く感じられないところが実にフレッシュです。戦争映画以外の作品中で、戦時中捕虜になった経験を持つ登場人物が昔を思い出して「捕虜収容所にいた頃が一番よかった」などとポツリと呟くシーンをよく見かけ、「そりゃ嘘だろ」とクレームをつけたくなることがありますが、「キング・ラット」を見る限りにおいては、そのようなセリフもむべなるかなと思われます。捕虜である内は一種の連帯感が自然と生れてくるのに対し、平和な世の中ではいざこざばかりが起きるのでそのようなセリフと相成るのでしょう。かくして捕虜仲間の連帯感が生き生きと表現されているのが「キング・ラット」であり、また、それがシリアスにではなくコミカルに描かれているところに大きな特徴があります。コミカルなシーンの中でも個人的なお気に入りは、次のようなシーンです。ある捕虜が飼っていた犬(戦争捕虜が犬を飼っているところからも、この作品は捕らえている側の残虐さを訴えるのが目的ではないことが窺われます)が死んだので、リーダー格の捕虜(ジョージ・シーガル)が、死んだ犬を料理して皆にごちそうします。最初は誰もそれが犬の肉であるとは思ってもいないので、皆で大喜びします。それが、犬であることが分かると、欧米人は犬を食べないので当然皆尻込みし始めます。しかし一人二人と恐る恐る食べてみるとこれがあまりにもうまく、最初は犬なんか食えるかと怒っていた連中までもが狂喜して食べ始めます。文章で書いただけでは面白さの半分も伝わりませんが、このシーンのテンポが、また絶品なのです。他にも、密かに飼育していた鼠を料理して自分達の上官に食べさせ大笑いするシーンなど、実に愉快なシーンが随所に散りばめられています。けれども、「キング・ラット」は、コミカルなシーンを描くのみが目的ではなく、日本が戦争に負け、捕虜達が解放されるや否や、それまでの連帯感が雲散霧消していく様を冷徹に描いてもいます。その意味でも、「捕虜収容所にいた頃が一番よかった」というセリフが持つ意味が、実に巧みに敷衍されていると見なせるかもしれません。というような作品ですが、「キング・ラット」には女性がただの一人も登場せず、華やかさを求める向きには退屈かもしれません。確かに捕虜収容所が舞台なので女性が登場する余地はないとはいえ、通常は戦争映画でもフラッシュバックシーンなどの手段により、必ずや1人や2人は女性を登場させて一種のエモーショナルなタッチを加えるものであり、ここまで野郎ばかりの作品はちょっと珍しいでしょう。監督のブライアン・フォーブスはイギリス人であり、いかにもイギリス人らしいとも言えます。1つ疑問なのは、「キング・ラット」の舞台となる捕虜収容所はどこかの南方の島に位置しているように見えますが、終戦時に日本は南方の島に捕虜収容所を維持していたとはとても思えません。その点どうなのでしょうか。


2002/04/14 by 雷小僧
(2008/10/28 revised by Hiroshi Iruma)
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