脱走山脈 ★★★
Hannibal Brooks

1969 UK
監督:マイケル・ウィナー
出演:オリバー・リード、マイケル・J・ポラード、ウォルフガング・プライス、ジェームズ・ドナルド

左:オリバー・リード、右:象のルーシー

J・リー・トンプスンと同じくチャールズ・ブロンソンにつかまる前のマイケル・ウィナーは、優れた佳作を監督していましたが、「脱走山脈」もプレ・ブロンソン時代のマイケル・ウィナーによって監督された作品です。個人的にブロンソンに恨みがあるわけではありませんが、彼はどうもこれらの監督さん達に少なからずマイナスの影響を与えたように思われます。「脱走山脈」は戦争映画であるとはいえ、一般の戦争映画とは異なりむしろ戦争という時代背景を利用して自然を描写しようとしたかのような印象すら受ける自然描写に溢れた作品です。その意味では、「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)などとも共通点が見出されるように思われます。ドイツ軍に捕まった戦争捕虜(オリバー・リード)が、動物園で働かされ、そこで飼われていた象のルーシーとともに戦乱を逃れてアルプスを越えようとするというストーリー(ということで象に乗ってアルプスを越えたカルタゴの名将ハンニバルに因んで原題が「Hannibal Brooks」なのです)が繰り広げられ、アルプスをバックグラウンドとして主人公が象を連れ歩くシーンが実にビューティフルです。戦争映画といえば、悲惨な光景が描かれるのが常であるのに対し、「脱走山脈」はそのような常識を離れて、すなわちアルプスや象のルーシーなどの自然を描写することにより、裏側から戦争の悲惨さが描写されている点が実に新鮮に感じられます。確かに、常にオーバーアクティング気味のオリバー・リードが、ここでも目をギョロつかせオーバーアクティングに余念がないといったパフォーマンスを披露している点や、マイケル・J・ポラードのわざとらしいパフォーマンスが気になるとはいえ、全体的には極めて出来のよい作品であると評価できます。加えて、アルプスの風景にマッチしたフランシス・レイのビューティフルで牧歌的な音楽は特筆に値します。作品に完璧にマッチしていながら、決して作品に埋没することがなく、単なるバックグランドミュージックに終っていないところがフランシス・レイのフランシス・レイたる由縁なのです。80年代以後、このようなオーディエンスをはっと思わせる映画音楽を聞くことが絶えて久しく、彼の音楽を聞いていると、かつて映画音楽がどれ程効果的且つドラマティックに作品を盛り上げていたかが窺われます。


2002/08/25 by 雷小僧
(2008/11/11 revised by Hiroshi Iruma)
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