密殺集団 ★☆☆
(The Star Chamber)

1983 US
監督:ピーター・ハイアムズ
出演:マイケル・ダグラス、ハル・ホルブルック、ヤフェット・コットー

左:ハル・ホルブルック、右:マイケル・ダグラス

凄まじい邦題が付いていますが、実際は法律をテーマとした社会ドラマです。マイケル・ダグラス演ずる判事は、証拠品が法律的に正当化され得る手段により取得されたか否かというような犯罪とは直接関係のない仔細な側面によって、ことあるごとに有罪が確実な悪漢どもを無罪にしなければならない事に嫌気がさしていたわけですが、ある日ハル・ホルブルック演ずる友人の弁護士から高名な判事や弁護士によって構成されるある集団に参加するように誘われます。実はこの集団というのが、無罪が確定したケースをもう一度誰にも知られないように密かに裁判し直して、それが有罪可決されるとヒットマンを送り込んで被告を抹殺するという組織であり、因みにそれが邦題になっているわけです。この組織にマイケル・ダグラス演ずる判事が意を決して入会する迄がこの映画の前半を構成し、この部分までは実に興味深い展開であると言えます。すなわち、法律の仔細な盲点によって有罪が確実であるようなケースを無罪にしなければならないとするならば、法律の有効性は一体どこにあるのかというような壮大且つ或る意味で哲学的な問題が提起されているとも言えるわけであり、思わずその展開に見入ってしまいます。しかし、やはり娯楽としての映画でそのようなテーマを扱うのはあまりにもヘビーであることは明白であり、この映画の後半は自らの立てたテーマの重みで自らの足元がガラガラと音をたてて崩れていくのですね。その後半部分は次のように展開します。件の組織に入会したマイケル・ダグラスは、法律の規定に則って証拠品が取得されなかった為に無罪を判決しなければならなかったケースを早速秘密裁判にかけて有罪判決を下しますが、やがてその犯人と思しき浮浪者達が真犯人でないことが分かり、今度はマイケル・ダグラスは良心の呵責に目覚めてその浮浪者達をヒットマンから守ろうと躍起になります。最後はアクション映画的な展開のなかで、二人の浮浪者がヒットマンに殺された後、それを見ていたマイケル・ダグラスもあわやというところで、ヤフェット・コットー演ずる真犯人を見つけた警部に救われます。そのコットーとダグラスが件の組織が裁判を行っているのをパトカーの中で盗聴しているラストシーンでこの映画は終わりますが、すなわちダグラスは最後はこの組織を暴露することになるわけですね。このような展開が後半の展開なのですが、一言で言えば問題の焦点が完全に前半と後半でずれてしまったと言えます。すなわち前半は前述したような法律の有効性に対する壮大な疑問が提起されていたにも関わらず、後半は件の秘密組織のようなある意味で私的な秘密機関が勝手に裁判をすることが正しいことか否かというようなあまりにも分かりきった問題に摺り変わっているわけです。後半の解答がNOであることはガキンチョでも分かることであり(従ってダグラスは最後に組織の存在を暴露するわけです)、前半提起されていた問題が法学者や哲学者でもそう簡単に答えられるはずもない問題であることと比べると雲泥の差があることは明白です。ましてや最後にアクション映画的展開になってしまうのは殊に前半と比べると愛嬌としか思えないのですね。また有罪であると思っていた浮浪者達が無罪であると分かってオタオタするマイケル・ダグラスは、むしろコミックですらあります。そのように考えてみると、この映画は前述したような壮大な問題提起に解答するのがそのテーマではなく、むしろそのような問題に直面した人間がどのように振舞うかというヒューマンドラマとして見るべきなのかもしれません。そういう面から言えば状況に押し流されてオタオタするマイケル・ダグラスの様子も良く理解出来ます。結論的に言えば、前半の展開によって後半に過大な期待を抱いて最後にがっかりしなければ、まずまず見て面白い内容であると言えます。


2004/03/13 by 雷小僧
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