ビーチレッド戦記 ★★☆
(Beach Red)

1967 US
監督:コーネル・ワイルド
出演:コーネル・ワイルド、リップ・トーン、バー・デベニング、ジーン・ウォーレス

前:コーネル・ワイルド

「ビーチレッド戦記」は、恐らく反戦コノテーションが含まれる最も初期の作品の中の1つではないかと思われます。1967年公開ということは、ベトナム戦争によってアメリカが疲弊するにはまだしばらく間があったはずであり、むしろジョン・ウエインが監督した「グリーン・ベレー」(1968)のようなタカ派的作品が公開されて物議を醸していた時分であったことを考えてみると、時代を一歩先んじていたような印象すら受けます。また、戦闘シーンの斬新さ(残虐さ?)においては、当時としては随一の描写を誇り、Jeanine Basingerは彼女の「The World War II Combat Film」(Wesleyan Unversity Press)の中で、「ビーチレッド戦記」とスティーブン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」(1998)の類似性を指摘しているほどです。「ビーチレッド戦記」の舞台は、第二次世界大戦中の南太平洋地域に置かれており、日本軍が占拠する小さな島をアメリカ軍が奪取する上陸作戦が描かれています。作品中には、各登場人物が、弾丸が飛び交う戦場の中で、故国で平和に暮らしていた頃を回想するフラッシュバック・シーンが頻繁に挿入されており、確かに現在の目から見るとあまりにもあからさまにエモーショナルに見えるのは避けられないとしても、地獄のような戦場の描写と過去の平和な時分の描写が対置されることにより、反戦メッセージが効果的に表現されていることにも間違いはありません。しかも、回想フラッシュバックはアメリカ側の兵士についてばかりではなく、日本側の兵士についても等しく挿入され、必ずしも自国側ばかりが強調されているわけではないところに、正義の国アメリカが悪の国日本に鉄槌を下すなどという愛国的なメッセージとは当作品が全く無縁であることが示されています。従って、「ビーチレッド戦記」には、ヒロイックな隊長、戦争のことは全て知り尽くした鬼軍曹、或いは最初はビビって臆病丸出しのヒヨッコだったのが度重なる戦闘経験を通して一丁前に成長する新米兵士などの戦争映画ジャンルによくあるクリーシェキャラクターがほとんど登場せず、その意味からも従来のヒロイックな戦争ドラマとは一線を画す作品であったと見なせます。また、ベトナム戦争がいよいよ本格化し泥沼化せんとしていた頃、すなわちあらゆる意味において愛国的なヒーローが活躍する戦争映画が賞賛されて然るべき時代に製作された作品としては、「ビーチレッド戦記」は極めて異色であったことが分かるのではないでしょうか。コーネル・ワイルドが、製作/監督/主演と一人三役をこなしていますが、50年代にはむしろ彼は娯楽アクション活劇に数多く出演していたことを考えてみると、その彼がこのような反戦映画の製作、監督、主演をしているのには驚かされます。しかし、よくよく考えてみると、あのフランク・シナトラですら、同様に第二次世界大戦中の南太平洋の島を舞台とする「勇者のみ」(1965)という反戦映画を製作、監督、主演していることに気付きました。有名人の良心というようなところでしょうか。細かい点をいくつか指摘しておくと、「ビーチレッド戦記」には日本軍も登場するので時々日本語が飛び交いますが、この作品を含めどうにも外国映画の中で日本語を聞くと「???」と思うことが多いようです。なぜなら、普段の日常会話で日本人が絶対にしない喋り方で会話が繰り広げられているからです。要するに、日本語のセリフ部分を聞いていると、もともと英語で書かれた脚本を、映画の脚本には素人である翻訳家が日本語に直し、それを役者が棒読みしているだけではないかという疑いが振り切れないようなシロモノであると思わざるを得ないのです。また、英語の会話の中で突然日本語が混入する為か、日本語であるにも関わらず英語以上に聞き取り難い場合がしばしばあるのも事実で、思わず自分の日本語能力が退化しているのではないかとビビることすらあります。それから、前半部には第二次世界大戦中に撮影されたドキュメンタリーフィルムが挿入されていますが、ドキュメンタリーフィルム挿入部分と本編部分との画像クオリティの違いが相当に気になります。ビデオであればまだしも、DVDだと余りにも差がありすぎるのです。実際、公開時、オーディエンスによってどれくらい差が意識されていたのかは良く分かりませんが、どうやら一般にこのような挿入クリップは画像リストレーションの対象にならないのか(或いは対象になってもほとんど効果がないのか)、たとえば同じことはブルースクリーンのようなテクニックを用いて撮影された背景シーンなどにも当て嵌まり、DVDは画像クオリティが優れているだけに余計にギャップが目立つ結果になっているようです。まあ、仕方がないのかもしれません。尚、コーネル・ワイルド演ずる主人公が回想シーンで奥さんを演じているのは、当時実生活でも彼の奥さんであったジーン・ウォーレスです。


2005/11/13 by 雷小僧
(2008/11/05 revised by Hiroshi Iruma)
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