東京暗黒街・竹の家 ★★☆
(House of Bamboo)

1955 US
監督:サミュエル・フラー
出演:ロバート・ライアン、ロバート・スタック、シャーリー・ヤマグチ、キャメロン・ミッチェル
左:ロバート・スタック、右:シャーリー・ヤマグチ

「東京暗黒街・竹の家」は、全編日本が舞台となっていますが(ロケは全て日本で行われたはずであり、従ってスタジオで撮影されたとおぼしきいくつかの室内シーンを除けば全て日本で撮影されたものと思われます)、戦後製作されたアメリカ映画の中で実際に日本で撮影が行われた恐らく最初の作品に該当するのではないかと考えられます。実は、その点について絶対的な確信があるわけではありませんが、最近発売されたDVDバージョンの特典に含まれている音声解説でも同様な見解が述べられています。終戦後10年が経過して、ようやく日本がアメリカ映画の舞台として取り上げられたことになりますが、これには1950年代前半の特殊な事情も寄与していたかもしれません。というのも、当時はカラー映画の本格化の時代を迎えて、カラー映像がもたらす効果を最大限に活かせるアフリカやアジアなどのエキゾチックな景観をバックとした映画が盛んに製作されていた頃であり、この作品もその中の一本であると見なすことが出来るからです。また、当時はテレビという強力なメディアが普及し始めた頃でもあり、テレビメディアでは真似ることの出来ない映画独自の特徴をオーディエンスに誇示することが映画製作における至上命題の1つでもあった頃です。この作品は横縦比2.35:1のワイドスクリーンで撮影されていますが、ワイドスクリーンプロセスも、テレビとの差別化を図る為に1950年代前半に導入された技術であったことは、よく知られた事実です。従って、この映画を皮切りに製作されるようになった1950年代の日本を舞台としたアメリカ映画では、好奇心の対象として以上の意図を持って日本が描かれることがほとんどなかった為、日本人の目にはいかにも奇妙に映らざるを得ないシーンが多々見られます。「東京暗黒街・竹の家」もその例外ではなく、たとえばさも当然という顔をして革靴を履いたまま畳張りの部屋を主人公達が歩き回っている様は、そもそもそのくらいの基本的なことすらリサーチされていないのかと思われても仕方がないところがあります。とはいえ、この作品は特に日本人オーディエンスを重要なターゲットにした映画というわけではないので、当時はそれでも許されたのでしょう。現在であれば、いくらアメリカからすれば異国の地である日本が舞台であったとしても、日本市場における売上げも考慮すれば、この作品ほどの滅茶苦茶は許されないはずです。内容に関してですが、この作品はギャング映画であり、パチンコ業界を牛耳り、その傍らで銀行強盗などの悪事を実行する犯罪組織のボス(ロバート・ライアン)と、その組織におとり捜査の目的で潜入する捜査官(ロバート・スタック)の駆け引きが描かれ、ストーリーとしては際めてスリリングな妙味があります。一見すると、主人公のおとり捜査官と日本人芸者(シャーリー・ヤマグチ)のラブストーリーでもあるように見えないこともありませんが、DVDバージョンの音声解説を担当している評論家も指摘しているように、むしろラブストーリーは飾り物であり、ロバート・スタックとシャーリー・ヤマグチの関係よりも、ロバート・スタックとロバート・ライアンの関係の方が重要であることは言うまでもありません。その点、すなわち日本人の登場人物に大きなウエイトがかけられていないことからも日本という舞台が単なる道具以上のものとして扱われているわけではないことが推察されますが、主人公二人(スタックとライアン)のアンビバレントな関係がこの作品の妙味の1つでもあり、それを活かす為の舞台としてアメリカ国内ではなく日本が選択されたと良きに解釈すべきかもしれません。ラストシーンのデパートの屋上での撃ち合いはビジュアルな効果と相俟って興味深く、勿論現在のアクション映画のような派手さはないとしても、当時のオーディエンスの目からすれば極めて新鮮に見えたであろうことが容易に想像されます。殊に東京を一望する回転遊戯マシンに乗っての撃ち合いはスタイリッシュですらあり、時にこの作品はフィルム・ノワールとして言及されることがありますが、確かにそのようなクオリティをいくつかのシーンに見出すことが出来ます。但し、カラー作品であることは別としても、全体としてフィルムノワール的イメージがそれ程突出している作品であるように見えないというところが個人的な感想としてあります。日本人には細部の欠陥があちこちで気にならざるを得ない作品ですが、スリリングなストーリー展開が楽しめることには間違いがありません。


2005/08/20 by 雷小僧
(2008/10/08 revised by Hiroshi Iruma)
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