連声(れんじょう)


佐藤和美


 連声(れんじょう)とは前の音節の末尾の音が、後の音節の頭母音(または半母音+母音)に影響して、後の音節が変化することである。もっと具体的に言うなら、前の音節が「ン」または「チ」「ツ」である時、後の音節がア行・ヤ行・ワ行であるなら、後の音節はナ行・マ行・タ行の音に変化する。

 次に例をあげる。

 観音 かん+おん→かんのん
 天皇 てん+わう→てんのう
 銀杏 ぎん+あん→ぎんなん
 安穏 あん+をん→あんのん
 因縁 いん+ゑん→いんねん
 輪廻 りん+ゑ →りんね
 雪隠 せつ+いん→せっちん
 屈惑 くつ+わく→くったく
 反応 はん+おう→はんのう

 大坂夏の陣のあった元和元年の「元和」は「げんな」と読む。つまり「げん」+「わ」→「げんな」である。京都の寺の仁和寺は「にんなじ」と読む。これも「にん」+「わ」→「にんな」である。親鸞の言行録である「歎異抄」(たんにしょう)は「たん」+「ゐ」→「たんに」である。

 今ではもうなくなってしまったが、平安時代までは漢字音の語尾の「n」と「m」の区別は存在した。その名残が「三位」(さんみ)である。つまり平安時代までは、「三」は「さむ」と発音されていたのである。すなわち「さむ」+「ゐ」→「さむみ」→「さんみ」と変化したのである。「三郎」を「さぶろう」と読むのも、「三」が「さむ」だった名残である。「さむ」が訛って「さぶ」になったのである。

 他に「陰陽師」(おんみょうじ)も語尾に「m」があった名残である。つまり「おむ」+「やう」→「おむみゃう」→「おんみょう」である。

 「剣幕」(けんまく)は古くは「嶮悪」と書いた。これも連声により「けむ」+「あく」→「けむまく」→「けんまく」と変化し、漢字まで変わってしまった。

 韓国・朝鮮語の漢字音では今でも「三」は「サム」で、「金」は「キム」、「南」は「ナム」である。
 「ヴェトナム」と言うのは、「越南」をヴェトナムの漢字音で読んだものである。「南」が「ナム」で、語尾の「m」が残っているのがわかる。ヴェトナムは1884〜5年の清仏戦争後、フランスの植民地になったが、その際漢字が廃止され、アルファベットを使うようになった。ヴェトナムも漢字文化圏だったのである。
 「越南」の旧仮名は「ゑつなん」wetunanだから、「ヴェトナム」vietnamに近いのがわかるだろう。

 時代が新しくなると、連声の習慣は消えてしまった。「田園」を「でんえん」と読むことによって、この言葉の新しいことがわかる。しかし連声の習慣は消えてしまったとはいえ、依然として、その伝統はある。「run away」を「ランナウェイ」、「pin up」を「ピンナップ」と読んだりするのがそれである。

 「声」の漢音は「せい」、呉音は「しゃう」である。「連声」の「声」が「じょう」と濁音になっているのは、連濁と呼ばれる現象である。連濁については別稿にゆずる。

(1997・6・8)


(参考:伝言板より)

「云々(ウンヌン)」 (1998/12/25)

 「云々」をどうして「ウンヌン」と読むかという話です。

「云」の音読みは「ウン」です。
「云々」では「ウンウン」のはずですが、
日本語には連声(れんじょう)という現象があります。
(「日本語とその周辺」の「連声」を参考にしてください)
「ウン」+「ウン」=「ウンヌン」というわけです。


(「言葉・思いつくままに」より)

「天和」(2008/01/05)

『連声(れんじょう)』に追加。

先日、テレビで八百屋お七のことをやってたのですが、お七の放火事件(実際はボヤ程度だったそうですが)があったのが、天和3年3月29日で、この「天和」を「てんな」と発音してました。
と言うことで、「天和(てんな)」を「連声」に追加。

『大辞林』
てんな てんわ 【天和】
〔「てんわ」の連声〕年号(1681.9.29-1684.2.21)。延宝の後、貞享の前。霊元天皇の代。


「玄翁」(2008/09/15)

『連声(れんじょう)』に追加。

先日、栃木県那須町にある殺生石に行って来ました。
ところで、九尾の狐が石になった後、この石を打ち砕いたのは「玄翁」で、「げんのう」って読むんですね。
と言うことで、「玄翁(げんのう)」を「連声」に追加。

『大辞林』より

せっしょう-せき ―しやう― 3 【殺生石】
(1)栃木県那須町湯本にある溶岩の大塊。鳥羽天皇の寵姫玉藻前(たまものまえ)に化けた金毛九尾の狐が殺されて化したと伝えられる石。後深草天皇のとき、玄翁(げんのう)和尚が杖で石を二つに割り、現れた霊を成仏させたという。

げんのう げんをう 【玄翁/源翁】
南北朝時代頃の曹洞宗の僧。諱(いみな)は心昭。越後の人。遊行中、下野(しもつけ)那須野の殺生石を杖で打ち砕いたという。生没年未詳。


新皇(2008/10/02)

『連声(れんじょう)』に追加。

今、夢枕獏『陰陽師 瀧夜叉姫』を読んでるところです。

平将門の話が出てくるんですが、平将門の自称「新皇」って「しんのう」って読むんですね。
「しんこう」だとばっかり思ってた(汗)。

『大辞林』
しんのう ―わう 3 【新皇】
〔「しんおう」の連声〕
(1)新しく皇位についた人。
(2)天慶(てんぎよう)の乱のときに平将門が自ら称した、支配者としての称号。


輪王寺、鑁阿寺(2013/11/30)

『連声(れんじょう)』に寺を二つ追加。

goo辞書から。

りんのう‐じ〔リンワウ‐〕【輪王寺】
栃木県日光市にある天台宗の門跡寺院。山号は、日光山。天平神護2年(766)勝道が開創。四本竜寺(のちの満願寺)と称した。慶長18年(1613)天海が入寺、徳川家康の墓所として東照宮を造営。のち、後水尾天皇の皇子守澄法親王が初代門跡となり輪王寺と改称。明治4年(1871)神仏分離令により東照宮と分かれた。本殿・相の間・拝殿は国宝。平成11年(1999)「日光の社寺」の一つとして世界遺産(文化遺産)に登録された。日光門跡。

ばんな‐じ〔バンア‐〕【鑁阿寺】
栃木県足利市にある真言宗大日派の本山。山号は、金剛山。開創は建久7年(1196)、開山は理真、開基は足利義兼(法名鑁阿)。通称、大日堂。



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