忌言葉(いみことば)
佐藤和美
縁起が悪いとかわっていくという話です。
植物の葦(あし)ですが、これは「悪し」(あし)と発音が同じですね。ということでこの植物は「良し」と同じ発音の「葭」(よし)にかえられてしまいました。葦と葭は同じ植物なんですね。
梨も「ありの実」と言いますよね。
スルメも「スル」と言うのが良くない、たちまち貧乏になりそうな名前だというので、なんと「アタリ」メという言葉がでてきました。飲み屋に行くとアタリメっていいますよね。
コチカメ(こちら葛飾区亀有公園前派出所)で有名になった「亀有」ですが、これはなんと「亀梨」(かめなし)という地名だったんですね。
縁起が悪いとかえられていくという話でした。
以上は以前(1998/06/01)私が伝言板に書き込んだものです。「縁起が悪いのはや」で使わなくなる言葉を忌言葉(いみことば)と言います。『大辞林』で「忌言葉」を調べてみましょう。
いみことば 【忌み詞・忌(み)言葉】
(1)信仰上の理由や、特定の職業・場面で使用を避ける言葉。不吉な意味の語を連想させる言葉、特に死や病気に関するものが多い。
(2)(1)の代わりに使う言葉。昔、斎宮(さいぐう)で「僧」を「髪長(かみなが)」といい、また、商家で「すり鉢」を「あたり鉢」、結婚式で「終わる」を「お開きにする」という類。→斎宮の忌み詞
「斎宮の忌み詞」も『大辞林』で調べてみましょう。
さいぐう-のいみことば 【斎宮の忌み詞】
伊勢の斎宮で用いられた忌み詞。神に奉仕するための、仏教や不浄に関する言葉の言い換えで、「延喜式(えんぎしき)」には「仏」を「中子(なかご)」、「経」を「染め紙」、「僧」を「髪長(かみなが)」、「死」を「なほる」、「血」を「あせ」というなど一四種が示されている。
サーチエンジンでも検索してみました。
BRIDAL QUESTION Q&A
http://www.bridal-melon.co.jp/kiji/hitoiki/Q&A/kyoshiki/a19.html
このページでは結婚式での忌言葉を紹介しています。引用してみましょう。
いとま・・離婚
薄い・・・縁が薄い
終わる・・愛が終わる、死
重ねる・・再婚
嫌う・・・夫婦の不和
切る・・・縁を切る
壊れる・・愛が壊れる
閉じる・・死、愛がなくなる
再び・・・再婚
滅ぶ・・・死、愛の終わり
「例えば、『ウェディングケーキを切る』ではなく、『ケーキにナイフを入れる』とか、披露宴は『終わる、幕を閉じる』ではなく『お開きにする』というふうに言い換えるようにします。また、二度繰り返す重ね言葉も結婚を二度繰り返すという意味で、縁起が悪いとされます。『いろいろ、ますます、たびたび、重ね重ね』などがそうです」
Fumiko's Home Page
http://www2s.biglobe.ne.jp/~hi-fumi/zatugaku7.htm
このHPではいろいろな忌言葉が紹介されています。
妊娠、出産を祝うとき
流れる・落ちる・滅びる・死ぬ・逝く・敗れる
新築を祝うとき
火・赤い・緋色・煙・焼ける・燃える・倒れる・飛ぶ・壊れる・傾く・流れる・潰れる
開店を祝うとき
敗れる・失う・落ちる・閉まる・哀れ・枯れる・寂れる
災害の見舞いや凶事
又(また)・再び・重ねる・追って・尚・猶(なお)
最後に「得手」に関しての伝言板からの書き込みです。
沢辺治美さん(2000/05/16 13:30)wrote
「得手」を『大辞林』で調べていたら、
(4)〔サルが「去る」に通ずるのを忌んでいう〕猿のこと。えてきち。えてこう。
と、あったのですが、何故「去る」を忌んで「得手」なのでしょう?
佐藤和美(2000/05/17 12:34)wrote
沢辺さんwrote
>何故「去る」を忌んで「得手」なのでしょう?
山口佳紀・編「暮らしのことば語源辞典」(講談社)には、
「エテは「得手」(手に入れること)」とあります。
「大辞林」の「得手」には、
(1)最も得意とすること。また、そのわざ。
とありますが、
「暮らしのことば語源辞典」には、
「「得手」は最も得意なことを意味し、それは他の者にマサル(優る、真猿)からだという一種のシャレをきかせてのこととも考えられる。」
とあります。
(2001・05・29)
(参考:伝言板より)
「オカラと卯の花」佐藤和美 (2003/07/14 20:43)
一つネタ追加。
数ヶ月前にNHKで「おしん少女編」の再放送見てたんですが、
おしんが奉公先で、「商家ではオカラはカラ(空)に通じて縁起が悪いから、卯の花って言うんだよ」てなことを言われてました。
(2011/02/26 追記)
佐竹秀雄「日本語教室 Q&A」(角川文庫)123ページより
「「うのはな」は、豆腐の副産物の「おから」についてもいう。これは色が白くて、植物の卯の花が咲き乱れるようすに似ているからであるが、同時に、おからが「空(から)」に通じるのを嫌って、「得(う)」の花と言うようになったとも言われる。」
(「言葉・思いつくままに」より)
「鏡開き」佐藤和美 (2007/01/08)
もうまもなく鏡開きですね。
さて、なんであの餅を鏡餅と言うのか?
鏡餅
「形が鏡に似ていることからこの名がある。鏡は古くは円形で、現在でも神社の御神体として円形の鏡が祭られている。」
(山口佳紀編『暮らしのことば語源辞典』講談社)
次になんで「開き」なのか?
同じく『暮らしのことば語源辞典』の「鏡餅」項から。
「なお、「鏡開き」の「開く」とは、鏡餅を「切る」という語を避けて用いたことば。」
なお、『大辞林』の「鏡開き」の項ではこうありました。
「「開き」は「割る」の忌み詞」
ということで「鏡開き」を『忌言葉(いみことば)』に追加。
「ひげを当る」佐藤和美 (2007/01/09)
も一つ『忌言葉(いみことば)』に追加。
『大辞林』
ひげを当る
江戸語・東京語では「(ひげを)剃(そ)る」を「する」というので、「剃る」の忌み詞。
「おめでたくなる」佐藤和美 (2007/09/17)
『忌言葉(いみことば)』に追加。
最近、芥川龍之介を読み返してるところです。
今、読んでるのが『河童・或阿呆の一生』(新潮文庫)。
その中の「玄鶴山房」46ページからです。
「お目出度くなってしまいさえすれば……」
この「「お目出度くなって」ですが、注解(三好行雄)によると、
「死んでの意。忌み言葉で、反対の表現。」
だそうです。
『大辞林』
おめでたくなる
「死ぬ」を忌んでいう語。
波の花
佐藤和美 (2011/02/26)
『忌言葉(いみことば)』に追加。
佐竹秀雄「日本語教室 Q&A」(角川文庫)166ページより
「あるいは、「シオ(塩)」が「死」を連想させるとして「波の花」と言い換えたり、」
「波の花」も忌言葉だったのか。
Copyright(C) 2001,2011 Satou Kazumi