地名の中のスペイン語冠詞
佐藤和美
英語では冠詞は定冠詞「the」と不定冠詞「a」の二つしかないが、スペイン語では、定冠詞が四つ、不定冠詞も四つある。
スペイン語の冠詞を一覧表にすると以下のようになる。
スペイン語冠詞
定/不定 | 性 | 単数 | 複数 |
定冠詞 | 男性 | エル(el) | ロス(los) |
女性 | ラ(la) | ラス(las) |
不定冠詞 | 男性 | ウン(un) | ウノス(unos) |
女性 | ウナ(una) | ウナス(unas) |
この中で定冠詞について、地名でどのようにでてくるか見てみたい。
まずは男性単数形の「エル」から。
これには「エルサルバドル」(El Salvador)がある。「サルバドル」は男性名詞なので、「エル」がつく。
「エルサルバドル」は中米の国である。「エルサルバドル」は「救世主」の意味であり、その首都の「サンサルヴァドル」(San Salvador)は「聖なる救世主」の意味になる。
次に女性単数形の「ラ」である。
これには「ラプラタ」(La Plata)がある。「プラタ」は女性名詞なので、「ラ」がつく。ラプラタは川の名である。
スペイン語では海や川の名に定冠詞をつけて呼ぶ習慣がある。スペイン語ではセーヌ川を「エルセナ」(El Sena)、テムズ川を「エルタメシス」(El Tamesis)という。スペイン語の「リオ」(rio)は男性名詞なので、冠詞には「エル」が使われている。
「ラプラタ」は「リオ・デ・ラ・プラタ」(Rio de la Plara)の省略形であり、「リオ・デ・ラ・プラタ」は「銀の川」の意味である。この場合の「ラ」は「プラタ」にかかっているので、川の名でも「エル」にはなっていない。
「アルゼンチン」はこの「ラプラタ」を「銀の」を意味する別のスペイン語「アルヘンティナ」(argentina)に置き換え、それを英語化したものである。
次は男性複数形の「ロス」。
これには「ロサンジェルス(ロスアンジェルス)」(Los Angeles)がある。意味はエンジェルの複数で「天使たち」である。「angel」は男性名詞なので「ロス」がついている。
なお、「ロスアンジェルス」というのは英語発音であり、スペイン語発音では「ロスアンヘレス」となる。
西部劇で有名なアラモ砦の「アラモ」(男性名詞)は、「ポプラ」の意味である。この複数形に男性複数形冠詞の「ロス」をつけたのが、核実験で有名な「ロスアラモス」である。
最後は女性複数形の「ラス」である。
これには「ラスベガス」(Las Vegas)がある。「ベガ」は「沃野」の意味である。「ベガ」は女性名詞だが、この複数形に女性複数形の冠詞「ラス」をつけたのが、「ラスベガス」である。
(1999・8・16)
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