エトゥ、ノツ(岬)



佐藤和美


 アイヌ語で岬を意味する単語にはいろいろなものがあるが、ここでそれを見ていこう。

 アイヌ語では人体の部分名称が岬の意味になることが多い。それは「鼻」、「あご」、「頭」などの体の尖っている部分である。

 「鼻」はアイヌ語で「エトゥ」etuである。
「エトゥ」のつく地名には尾岱沼(おだいとう)がある。
尾岱沼の語源は「オタエトゥ」ota-etu(砂の岬)である。岬を指した語が野付湾のことになってしまっているのはどうしたことだろうか。アイヌ語で「トー」toは「湖、沼」の意味だが、ここでは「沼」という字を「トウ」と読ませている。

 「あご」はアイヌ語で「ノツ」notである。
能取岬は「ノトロ」Not-orで、「岬の所」という意味である。
納沙布(のさっぷ)岬も野寒布(のしゃっぷ)岬も語源は同じで、「ノツサム」Not-sam(岬のかたわら)が語源である。

 江差、枝幸(廃止された興浜北線の終点、北見枝幸)の「エサシ」も岬である。
「エサシ」は「エサウシ」で、これの詳しい意味は
e(頭)+sa(浜)+us(につけている)+i(もの)
になる。

 襟裳岬の語源は「エンルム」enrumである。これも岬の意である。
「エンルム」の詳しい意味は
en(突き出ている)+rum(頭)
である。
なお、室蘭の絵鞆の語源もこの「エンルム」と言われている。

 このようにアイヌ語の「岬」には多くの場合、人体名称がつけられているのであった。これは古い時代のアイヌのアニミズム的な考えが地名に反映しているのかもしれない。

(1999・5・29)



Copyright(C) 1999 Satou Kazumi

BACK