ピラ(崖)



佐藤和美


 アイヌ語で「ピラ」piraとは「崖」という意味である。それでは「ピラ」のつく地名にはどのようなものがあるか見てみよう。

 まずは豊平川である。「札幌地名行」でもふれたが、豊平川は「トゥイピラ」Tuy-pira(くずれた崖)という意味である。

 川に沿って崖がある場合、崖の川上側の始まりの部分を「ピラパ」pira-pa(崖の上手)という。崖の川下側の終わりの部分を「ピラケシ」pira-kes(崖の端)という。札幌の平岸(ひらぎし)はこの「ピラケシ」である。

 沙流川流域にある平取(びらとり)町は「ピラウトゥル」Pira-utur(崖の間)が語源である。この町はアイヌ初めての国会議員であった萱野茂さんの出身地である。萱野茂さんはこの町の町議会議員から参議院議員になったのである。

 明治になってそれまで名字を名のれなかった人々も名字を名のれるようになった。その時、地名から名字をつける人も多かったようだ。アイヌの例では次のようなものがある。
・「ピパウシ」Pipa-us-i(からす貝の多いもの(川))から「貝沢」という名字ができた。
・「ピラカウンコタン」Pira-ka-un-kotan(崖の上にある集落)から「平賀」という名字ができた。

 「pira」(崖)には「平」の字が当てられることが多い。ここで今まであげた例でも、「pira」は全て「平」の字である。松浦武四郎は「pira」に「平」の字をよく使っていたようだ。日本語の古語では「ひら」は急斜面の地形のことである。アイヌ語の「ピラ」と意味もよくあっている。そのため「ピラ」に「平」の字を当てても違和感がなかったのだろう。

(1998・8・17)


(注)
日本語「ひら(平)」とアイヌ語「ピラ(崖)」(2004/12/31の伝言板より)

日本語「ひら(平)」とアイヌ語「ピラ(崖)」が関係あるんだかどうだか。

山田秀三『アイヌ語地名を歩く』(北海道新聞社)118ページ
「日本語の古語では「ひら」は急斜面の地形のことである。当時はこう書いて「フィラ」と両唇音で発音したのだという。アイヌ語の「ピラ」とまるで似ていて面白い。東北地方の北部の山中では、今でもその古語が残っていて、山の急斜面を「ひら」といい、それをフィラと発音している。」

http://www.hyogo-u.ac.jp/soc/soc/kokugo/annai/annai-2004/2004-6.htm
上記ページに外間守善『沖縄の歴史と文化』(中公新書)からの引用があります。

「「坂」のことを沖縄語では「ヒラ」という。日本古語では「黄泉比良坂」のように「ヒラサカ」と言っていた。沖縄語に「ヒラ」が残り、日本語に「サカ」が残って、半分ずつお互いが分け持ったことになる。」


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