第63回「サイクリングで本門寺」(2001.1.1)



 僕は今、東急線を離れて小田急線の祖師谷大蔵のあたりに住んでるんだけど、このコラムの取材のために東急沿線まで行くのは結構楽しい。仕事柄、どうしても部屋に籠もることが多くなっちゃうので、天気のいい日にはサイクリングで遠出したくなるのだ。ついでに取材もしようというわけで、今回は池上線の池上駅を目指してみた。
 長いことかかってた長編小説が書き終わった直後によく晴れた温かい日がやってきたのだ。それ行けとばかりに自転車に跨がった。多摩水道道路を突っ走って玉川通りから多摩川水道橋を渡り、多摩川沿いの多摩川サイクリングロードを走ることしばし、多摩川大橋を渡って大田区へ。なんだかタマガワづくしだなあと思いつつ、第二京浜をしばらく走って行くと池上本門寺のお山が見えてきた。
 池上駅からだと、改札を出て道を渡ったとこに見える本門寺通りの商店街を通って徒歩十分ってとこだろうか。いかにも門前町の商店街らしく、和菓子屋さんやそば屋さんが多いのが目につく。くずもち・ごまおはぎ・瓦せんべいと眺めていくとやがて立派な総門と緑の丘を上る石段が見えてくる。
 その石段を上がると、高台にすかーんと開けた境内に出る。この広さと見晴らしが、実に何とも気持ちいいのだ。寺院建築というのはある種の仏教思想を具象化したものなんだそうだけど、その道に疎い僕でも何だか和やかに寛げる場所なのであった。
 いくつものお堂を眺めながら境内の奥へと進んでいった。平成十四年は日蓮聖人が法華経の教えを広め初めてから七百五十年目にあたるのだそうで、それを記念した建物の建築も進められている。七百五十年なんて、ちょっと想像もつかないくらい長い年月だよなあ。
 大堂の脇を抜け、道を渡って本殿へ。その奥庭の松濤園は、明治維新の時に勝海舟と西郷隆盛が会談して江戸城の無血会場を協議したところだそうだ。大堂などでもらえるお寺のパンフレットに載っているクイズに解答すると松濤園見学券をいただけるので、オリエンテーリング気分で散歩した後で庭園を楽しむというのもいいんじゃないだろうか。
 松濤園の上に広がる空を見上げると、羽田からジャンボジェットが飛び立っていくのが見えた。──日蓮聖人の立教開宗から約七百五十年、明治維新から約百三十年。新世紀の始まりに、歴史の重みを感じる初詣なんてどうでしょう?
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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp