第62回「武蔵新田の串焼きステーキ」(2000.12.1)



 秋晴れの日の昼下がり、目蒲線の武蔵 新田の商店街を自転車で走っていたら、ちょっと気になるお店を見つけた。入口付近に味のあるイラストがいっぱい飾ってあるお店で、「かまくら亭」という看板が出ている。しゃぶしゃぶとステーキの店のようだが、すき焼きとか鴨鍋なんかもやってるようだ。いろんな料理の名前に食欲を刺激され、食い意地の張った僕は迷うことなく自転車のブレーキをかけた。
 扉の脇のメニューを見れば、お昼のランチも充実してる。早速入店した僕は、店内の壁にも貼られたたくさんのイラストを見回しながら牛串焼きステーキのランチを注文した。メニューには「肉は鹿児島の黒牛を使用、霜降りのやわらかい肉」なんて書いてあって、期待はふつふつと高まってくる。
 待つことしばし、やがて金串に刺さって程よく焼かれたお肉が運ばれてきた。かぶりついたら本当にやわらかくて美味しかったし、ステーキ皿に添えられたレモンの輪切りも爽やかである。ライスとスープとサラダも付いてボリュームもたっぷり、食後にコーヒーもついて八百五十円。なかなか充実した昼食であった。
 食事をしながら店のママさんにお話をうかがった。店のあちこちに飾られたイラストは息子さんが描いたものなのだそうで、ファイルに整理されて眺められるようになっていた。息子さんがお店やマスターやママさんのイラストを描き、それをコピーしてチラシや貼り紙に使ってるんだとか。店内に家庭的な雰囲気が漂ってんのもそのせいかもしれない。
 聞けば、かまくら亭はオープンしてから三十年にもなるのだそうだ。常連のお客さんとのエピソードも豊富なようで、近所の図書館に通って勉強してた医学生が立派なお医者さんになったとか、社長が連れてきてた坊やがやがて二代目社長になったとか、時の流れを感じさせてくれるお話をいろいろ聞くことができた。僕の後に来店した家族連れのお客さん達は、先頃亡くなったというお店の愛犬にお線香を上げるという話をしていた。いただいたチラシを見ると年末にはお店と常連さんとの忘年会も開かれるようだし、お店とお客の間に親密な空気が漂ってる雰囲気は何ともいいものだった。
 お昼のランチにはビーフカレーとか自家製ウインナーとかビーフシチューとかもあるようで、夜の部には焼き肉食べ放題なんてのもあるらしい。そのうちまた行ってみたい店だなあ。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp