第60回「妙な縁だね妙蓮寺」(2000.10.1)



 インターネットやパソコン通信の世界にはオフ会という言葉がある。ネットを通じて知り合った人達が直接顔を合わせることなんだけど、普段オンラインで交流している同士がネット抜きで会うからオフというわけだ。パソコン画面でしか知らなかった人と実際に会ってみると、イメージ通りだったりギャップがあったしてなかなか面白いもんである。
 そんなわけで先日、東横線の妙蓮寺でオフ会を行った。妙蓮寺在住の方と知り合ったのでコラムのネタはないかなと相談したところ、じゃあ私の行きつけの店で飲みましょうって話になったのだ。某落語サイトで仲良くなったメンバーが四人、妙蓮寺駅で待ち合わせである。
 少し早めに着いた僕は、駅名の由来の長光山妙蓮寺を訪れてみた。改札を出てすぐ左が山門になってるので、ちょっと時間を潰すには丁度いいのだ。広い境内を散歩していて気持ちいいし、本堂脇には小さな庭園もある。そこの草木や小さな滝を眺めていると、ゆったりと落ち着いた気分になれたのだった。
 みんなと合流した後は、駅の近くの炭火焼甲州というお店に繰り出した。主婦と学生とデザイナーと物書き、年齢も職業もばらばらのメンバーで四人がけのテーブルを囲み、落語やネットの話題を肴に一杯やったのである。インターネットがなかったらこんな面子で妙蓮寺に集まって飲むなんてこともなかったろうなと思うと、何だか不思議なもんであった。
 ちなみに、僕が最初にこの人達と顔を合わせたのは下北沢の神社でのことだった。それまではネットでの付き合いだけだったのだが、立川談四楼師匠の北沢八幡落語会の会場で声をかけられたのだ。神社で出会ってお寺の名前の駅に集合ってのも、妙といえば妙な話である。
 妙ついでにもう一つ、ちょっと嬉しい偶然が重なった。──この日、さあ妙蓮寺だと思って家を出たら、ポストに一冊の本が届いていたのだ。新潮社からの書籍封筒で、中に入っていたのは談四楼師匠の短編小説集『「師匠!」』だった。物書きをしてるおかげで新刊をいただけたのだが、僕らが出会うきっかけになった師匠の本がこういうタイミングで届いたというのも不思議な縁だなあと思う。
 取材に向かう道すがら、僕は電車の座席でその本のページをめくった。とんとんと畳みかけてくるような文章に引き込まれ、笑えた後でじんとくる噺家達の世界をしみじみ味わっていたせいか、妙蓮寺までの距離はやけに短く感じられた。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp