第6回「ニコタマの竜と小劇場」(1996.2.1)



 大井町線の下りに乗り、進行方向むかって左側を眺めていると、二子玉川園駅の手前で竜が見えることがある。
 町の中に、いきなり竜がいるのだ。やけにカラフルで丸っこい竜で、時折ゆっくりと動いてる。−−立ち並ぶ家々の屋根の向こうにドラゴンがいるってのは、実に何ともシュールな眺めだと思う。
 実はこの竜、ナムコワンダーエッグというテーマパークの物である。その園内はゲームの世界が現出したようなファンタジー空間だから、竜がいたって当然といえば当然だ。だけど、ふと眺めた町並みに竜を見つけた時は、ちょっと不思議で微笑ましい気分になれる。
  駅の反対側にある高島屋SCも、なかなか楽しい空間である。基本的にはデパートみたいなもんなんだけど、いくつかの建物が繋がってるので、迷路みたいに散歩を楽しむこともできるのだ。
 角を曲がると意外なお店があったり、ひょいと歩くと駐車場に入っちゃったり。施設の中には小さなホールもあって、ライブや演劇を上演してることもある。
 先日、そこに足を運んで『物語の魔法・グリムランド』という劇を見てきた。グリム童話を題材にした小劇場演劇である。原作が持ってる夢も毒も目茶苦茶さも、全部ひっくるめて舞台に乗っけたような劇で、見ていて妙に楽しかった。
 もともと、グリム兄弟は童話を書いたわけじゃなくて各地に伝わる昔話を集めて記録しただけなんだそうた。語られてた言葉を文字に置き換えたわけだが、劇中では兄弟と物語との出会い描くことで、書かれた文字を再び空間に踊らせていた。そういうのって、僕みたいに小説を書いてる人間にとっては実に刺激的である。
 劇場の中、役者の肉体を通して語られる言葉には不思議な凄みがある。それがグリム童話のダークな部分と結びつくと、物語ってものが持ってる本来のパワーが剥き出しになるような気がする。ちょっと抽象的な言い方になるけれど、人は物語によって世界と結びついているのだし、ことによると物語抜きには世界を認識できないんじゃないだろうか。
 童話とかメルヘンとか呼ばれるものは、甘い口あたりの底に凄いエネルギーを秘めてたりする。−−ちなみに、僕の書いた本は「少年小説」なんて呼ばれてて、本屋では児童書の棚に並んでることが多い。それならやっぱり、大きな力を持った物語を書いていきたいもんである。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp