第54回「時の流れと目黒駅」(2000.4.1)



 先日、久々に目蒲線に乗る機会があった。目黒駅で下り、ぼけっと歩いて改札を出たんだけど、その途端に妙な違和感に包まれた。
 何だか見慣れない場所に出てしまったのだ。駅を間違えちゃったかなと思いきや、駅の改装工事が終わって真新しくなっていたのである。──今年の九月から営団地下鉄の南北線と都営地下鉄の三田線が目蒲線に乗り入れるんだそうで、相互直通運転に備えて目蒲線目黒駅は地下に潜っていたのだ。
 しばらく見ない間に変わってるもんだなあと思いつつ、エスカレーターで地上に出た。駅前で用事を済ませた後は、ついでに駅周辺を見て回ろうと思って散歩に出発することにした。
 権之助坂をのんびり下りていき、目黒川沿いの散歩道に入るコースである。確かこの道は中目黒駅の高架線をくぐって池尻大橋駅のあたりまで続いているんだけど、さすがにそこまで行く気はしないので途中の公共施設に立ち寄った。
 この目黒区民センターには、美術館や図書館、プールやボーリング場まで揃っている。こんな施設が近所にあったら便利だよなあと思いつつ、僕の趣味としてはまず図書館である。とりあえず検索コンピューター(落語「目黒のさんま」にちなんで「さんまくん」)をいじり、何か面白いもんないかなあと探してみることにした。
 試しに小説誌を検索してみると、かなり昔のバックナンバーまでずらっと揃っている。ふと思いつき、僕が東京に出てきた十年前のものを読んでみることにした。受け付けの司書さんに頼んでどさっと持ってきてもらい、ページをめくって時間旅行である。
 いちいち小説を読むのは面倒なのでぱらぱらっと眺めただけなんだけど、それでもなかなか楽しかった。売れっ子作家の先生方のルックスが今とは全然違ったり(花村萬月さんに髪があったのには驚いたなあ)、推理小説の新人賞の予選通過者リストに今では第一線で活躍してる方々の名前が並んでたり(落選歴の多い僕としては勝手に親近感を抱いてしまった)、十年一昔っていうけど本当だなあと思わずにはいられなかった。
 十年前に期待の新人として紹介されていながら今では見かけなくなった人なんかもいて、駆け出しの我が身を振り返るとちょっとばかり緊張せずにはいられなかった。──願わくば、十年後にも作家として生き残ってたいもんだなあ。
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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp