第52回「田園都市線でネタ探し(1)」(2000.2.1)



 このコラムは僕の見聞きしたことを書き綴っているので、勢いネタにするのは僕の生活圏にある駅が多くなる。一応、一駅か二駅で一回のペースで書いて全駅踏破を狙ってるのだが、世田谷区や目黒区近辺の駅ばかりを消化していって神奈川方面の駅はあんまり書いてなかったりするのが困ったもんだったりする。
 そこで先日、田園都市線の奥の方をネタにしちゃおうツアーというのを敢行した。青葉台駅と中央林間駅は過去に書いたんだけど、間に挟まる六駅が手つかずなので、何かしらネタを見つけてコラムを書いてしまおうという企画である。
 僕一人で行くのでは心もとないので、ゲスト二人に御同行をお願いすることにした。立川らく平さんと立川志ら乃さん──談志家元率いる立川流落語会の、志らく門下の前座さん達である。落語家といえばお題に応じてうまいこと言うのが商売みたいなもんだろうから、洒落や謎掛けの一つも考えてもらってネタにさせていただこうと思ったのだ。とりあえずお二人と列車に乗り込み、沿線に何か面白そうなものを見つけたら駅を出て取材に行こうかという作戦である。
 なんてな事情を説明すると、らく平さんは即座に「洒落なんて、そう簡単に出てくると思ってんですか?」なんてご謙遜。だけど二人の落語家さんの目は車内の路線図に向けられ、やがて張り合うように駄洒落合戦になってきた。やはり短い駅名の方がネタにしやすいのか、田奈駅がらみのものが多いようである。
 志ら乃さんが「ティナ・田ぁ奈ー」とくればらく平さんが「びっくりし田奈ぁもう」とやり返す。志ら乃「見ぃたぁなぁー」らく平「たなテック」くらいまでは良かったが、志ら乃「あかさたな」らく平「はまやらわ」となると無茶苦茶である。──絶妙の間とテンポで言ってくれるから聞いてる僕には面白かったんだけど、こうして文字にしてみるとわけが分からんような気もするなあ……
 で、列車は噂の田奈駅に到着。ホームに下車した僕らは、後でイラストにするために記念撮影をおっ始めた。その内に次の列車がやってきて、じゃあこれに乗ってもっと奥まで行ってみようかなんてな話になってたんだけど、列車は急行でぐわーっと僕らの前を通過していってしまった。
 すると志ら乃さんがすかさず、「急行行っちゃったよ。弱ったなぁ」──うまいねどーもというわけで、この馬鹿馬鹿しくも楽しい珍道中は次回に続きます。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp