第49回「武蔵小杉のエレベーター」(1999.11.1)



 学生時代、僕は二年ほど東横線で通学していた。武蔵小杉というのはその時の通過駅で、よく用もないのに途中下車したものだ。せっかく定期券を持ってるんだから、途中の駅も下りとかないともったいないような気がしてたのである。
 帰りがけにちょいと買い物なんてこともあったし、学校に行く途中でふっと嫌になり、突然電車を下りてぶらぶら散歩なんてこともあった。──大学で何を学んだかなんてまるで覚えてないくせに、そうやってさぼったことだけは鮮明に覚えてるんだから変なもんである。
 別にわざわざ武蔵小杉で下りる理由はなかったのだが、南武線と接続してて賑やかそうだし、町並みが何となく親しみやすいような気がしていた。ぶらぶら歩いてる内に髪でも切るかという気になって床屋に寄ったり、ふとのぞいた店でびっくりするほどサイズがぴったりのジーンズを買ったり、まあ考えてみると昔も今も行動パターンは大して変わってないようだ。
 で、先日久しぶりにその武蔵小杉駅で途中下車してみた。──本当は桜木町まで行く用事があったんだけど、予定の時間より早く出たのでちょいと寄ってみるかという気分になったのである。
 最初は駅前に出て散歩しようかと思ったのだが、その前に目に止まったものがあって気が変わった。──昔はなかったと思うのだが、ホームのとこにエレベーターが設置されていたのである。
 普通、エレベーターというと壁に埋まったような感じになってるもんだが、ここではホームの中程にぽかっと顔を突き出す格好になっていた。しかもガラス張りで中が見えるようになっていて、ちょっと目を引くデザインである。──僕は昔から、透明なエレベーターを見るとロボットアニメや特撮ドラマの秘密基地を連想してしまうのだ。目の前でウィーンと動きだした日にゃあ、頭の中でサンダーバードのテーマが鳴り響くのである。
 で、ちょうどカメラを持ってたし、取材ついでにそのエレベーターを撮影しておくことにした。──こういうのがあると乗り換えでホームを移動する時に便利だろうし、お年寄りや足の不自由な人やベビーカーを押したお母さんなんかにも重宝しそうである。
 しかし用も無いのに乗ってると利用者に迷惑がかかるかもしれんから、僕は近くの階段で上り下りである。階段を使ってエレベーターを眺めてんだから、考えてみれば妙なもんかもしれないけれど。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp