第47回「横浜駅の胡弓弾き」(1999.9.1)



 横浜駅で東横線を下り、西口の方に歩いていくと、広場から音楽が聞こえてくることがある。──デパートが閉店してシャッターが下りた頃から、西口広場近辺にはストリートミュージシャンが現れ始めるのだ。高島屋やジョイナスの周りで結構な数のユニットが演奏してたりするので、辺りをぐるっと散歩してみるのも楽しいもんである。
 大抵のミュージシャンはゆずやサムエルみたいにギターがメインなんだけど、中には珍しい楽器を奏でてる人もいる。──そんなわけで今回は、横浜駅前で胡弓という弦楽器を演奏している山平憲嗣さんに取材してみた。
 胡弓というのは中国大陸で生まれた弦楽器で、けんじさんの楽器は弦が二本なので正式には二胡というのだそうだ。二本の弦の間に通した弓を右手で動かし、左手は弦を押さえて音程を調節する。ちょっと目を引く演奏風景なので、通りがかりに立ち止まってく人の姿もあった。「それは何ていう楽器?」なんて感じでミュージシャンとの会話が生まれていくのも路上演奏の醍醐味かもしれない。
 見た目だけじゃなくて、その音色も不思議な響きを持っている。なんだかバイオリンと人の声のハーフみたい音で、ゆったり伸びやかに歌い上げてるように聞こえるのだ。僕が取材に行った日にはギターの池田正博さんって人と共演してらしたんだけど、ギターと一緒だと胡弓がボーカル担当みたいである。高い声でブルースを歌う人っているけれど、あれに弦楽器ならではの膨らみをプラスしたような音色っていうと近いかもしれない。
 けんじさんは他にもオカリナやカリンバといった楽器を持ってきていて、気の向くままに取っかえ引っかえ演奏していた。聞けば、けんじさんが初めて胡弓という楽器と出会ったのもこの横浜駅前なのだそうで、オカリナもカリンバもみんな路上で出会ったとのこと。だから路上での演奏にはこだわりがあって、ここでまた別の人が胡弓を知って演奏してくれたらいいなと思っておられるそうだ。
 ちなみに、けんじさんと池田さんが知り合ったのも横浜駅前だそうだ。ここで知り合い、セッションしようかって感じで一緒に演奏を始めたんだとか。さらにそこにバンジョー奏者の原さんという人も加わって「龍降器奏楽団」というバンドを結成、九月十八日には大船駅西口のイマジンというライブハウスで二度目のライブを開催するってことなので、お近くの方は聞きにいってみてくださいね。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp