第41回「富士山見ながらドーナツを」(1999.3.1)

目蒲線の洗足駅を下りて環七方向に歩いていくと、ちょっと大きめのミスタードーナツが見えてくる。環七にでーんと面した店舗だし、店内のディスプレイとしてメリーゴーランドまで置いてあるので、見た覚えがあるという人も多いんじゃないだろうか。
僕も通りがかりにお店の中を覗いていた口で、回転木馬たあ豪気だなーと感心していた。実際に乗れるわけじゃあないんだけど、アーリーアメリカン調の店内でメリーゴーランドが回転してる様を見ていると何となくノスタルジックな気分を味わえるのである。
まあ外から眺めるばかりだったんだけど、先日友人と一緒に入店する機会があった。ある晴れた日曜日、夕暮れ時にたまたま近くを通りかかって中に入ってみたのだ。──そしてそこで、僕はメリーゴーランドよりも目を引く光景に出会うことになった。
店の西側の大きな窓は環七に面していて、信号を渡った先には目蒲線がまっすぐに伸びていた。線路は地面を掘り下げた感じで半地下を走っているので、その上はすかーんと開けている。大岡山から緑ヶ丘方面にかけて下り坂になってることもあり、線路の上はとても見晴らしがいいのだ。東京の西側の空が見晴らしがいいとなると──そう、富士山が見えるのである。
おまけにその時、西の空は見事な夕焼け色に染まっていた。まばらな雲まで茜色に染まり、富士山はシルエットになって浮かび上がっている。大きな窓はその美しい光景を飾る額縁みたいな格好で、店内にはその眺めに見とれているお客さんの姿も多かった。
運良く窓際のテーブルが空いたので、僕らはすぐにその席に陣取った。のんびりドーナツを食べながら、刻々と色合いを変化させていく夕焼けを堪能できたというわけである。
僕は早速シャーペンを握り、その時持っていたノートにスケッチを開始した。もちろんイラストは白黒になるわけだけど、ノートから顔を上げると夕焼けの色彩が目に飛び込んでくる。茜色だった雲が黄色くなっていたり、周りの方から藍色が溶け込んできたり、ほんのちょっと目を離しただけで空のグラデーションは表情を変えていく。何だかドーナツの味まで引き立つような、なかなか贅沢な眺めであった。
そんなわけで、富士山と夕焼けとドーナツを楽しみたい方にはお勧めですよ。
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竹内真
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