第37回「二子新地のモニュメント」(1998.11.1)



 田園都市線の二子新地駅の改札を出て左に曲がり、商店街の道をぶらぶらっと歩いていくと、多摩川土手のちょっと手前に白いモニュメントが見えてくる。二子神社や二子公園の辺りにあるので緑も多く、白い彫刻がすっと空に伸びている様が実に美しい。──天気が良ければ、バックに広がる青空に白が映えて目に鮮やかである。
 一体このオブジェは何だろうと思って周りを見てみると、近くに「岡本かの子文学碑『誇り』」という表示があった。女流文学者の岡本かの子を記念して建てられたものなのだそうで、地元川崎の有志の人達と全国の岡本かの子ファンの発意によって計画されたものなんだとか。
 モニュメントの作者は、もちろん岡本太郎氏。──知ってる人は知ってると思うけど、「芸術は爆発だ!」で有名な炎の芸術家は、岡本かの子の御子息なのである。かえすがえすも惜しい方を亡くしたものだが、彼の作品には今もこうして街角で出会うことができる。
 調べてみると、かの子の没後に彼女が愛した多摩川のほとりにモニュメントを建てようとしたのは、漫画家の岡本一平だったらしい。──岡本一平、言うまでもなく岡本かの子の夫にして岡本太郎の父である。
 かの子観音堂の建立というのが一平の念願だったが、それを果たす前に彼も亡くなってしまった。──後年、かの子の文学碑を建てようという機運が高まった時、太郎は父の遺志に応える意味もこめてその事業に打ち込んだそうである。
 父の遺志を受けた息子が、母の業績を讃えた記念碑を創る──さすがの芸術一家だなーと思いながら街角のモニュメントを見上げると、何だか感慨もひとしおである。一人一人の作品を思い浮かべながら散歩してみるというのも、芸術の秋にはふさわしいかもしれない。
 僕個人の感想はというと、この彫刻のしっかりとした土台の曲線を見て「かっちょいいなあ」、すうっと天を突くシルエットを見て「気持ちいいなあ」ってな程度である。そういう軽い気分で芸術作品を楽しめる街角ってのも、なかなか贅沢だよなーという気がする。
 岡本太郎作品というと、かの「太陽の塔」のような顔と強烈な自己主張というイメージがあるけれど、この「誇り」は自然な感じで町と溶け合っている気がする。散歩の途中で眺めるのにはぴったりなので、興味のある方は一度見に行かれてはいかがでしょう。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp