第36回「桜新町のサザエさん」(1998.10.1)

知ってたからって得するわけじゃないけど、知ってると何となく得意になれる雑学知識ってのがある。──「笑点の林屋こん平師匠がよく口にするチャーザー村って、本当にあるんだぜ」とか、「葛
飾区に亀有公園前派出所ってのはないけど、あれそっくりの交番はあるんだぜ」とか、酒の席なんかで口にすると思わぬ反響を呼んで盛り上がったりするのだ。だから何やねんって言われればそれまで
なんだけど、みんなが知ってるテレビ番組の知識ってのは話題として意外と便利だったりする。
そんな小ネタの一つに、「サザエさんに出てくる三河屋さんには、モデルがあるんだぜ」ってのがあった。──まあ本当にモデルにしたのかどうかは分からないんだけど、サザエさんの町には三河屋
さんがあったのだ。そうすっと三郎さんや三平さん(昔の店員さんはそういう名前だったのだ)はいるのかなってなもんで、今回はそれにまつわるお話。
新玉川線の桜新町駅の近くには、サザエさんの原作者の名を戴く長谷川町子美術館がある。駅の辺りから美術館まではサザエさん通りという道が続いていて、電柱や街灯にはサザエさんの顔をデザイ
ンしたボードが下がっている。このボードを眺めつつ商店街の道をぶらぶら歩いていくと、程無く美術館に到着だ。
途中、交番のある辺りで三叉路があって、右に進めば美術館だが、ここを左に行くのがミソ。そうすると左手に三河屋さんという酒屋さんが見えて……きたのだ。以前は。
以前は見えていたのだが、なんとこの夏で三河屋さんは閉店してしまった。そのうちコラムのネタにしようと思ってた身としては、どうにも洒落にならない事態である。たまたま通りかかって閉店の
貼り紙を目にした時には、しばらく呆然と立ちすくんでしまった僕であった。
サザエさんの町に三河屋さんという、格好の話のタネが失われてしまったのは残念だが、閉店ならば仕方がない。三叉路の交番のところまで戻って長谷川美術館に行ってみる。──ここには、故長谷
川町子さんが収集なさった美術品に加えてサザエさん関係の展示品もあるのだ。
楽しいのは、サザエさんの家(というか波平さんの家か)のミニュチュアモデル。実際の設定通りに作ってあるので、なるほどこうなってんのかあと納得することしきりである。──磯野家の間取り
をさらさらっと描けるってのも、ちょっとした芸かもしれないね。
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竹内真
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