第32回「ネオちんどんの菊名駅」(1998.6.1)



 最近僕は、かぼちゃ商会というバンドにはまっている。──ミュージシャンとしてライブに出たりCDを出したりする一方、チンドン屋さんとして各種イベントや宣伝活動で活躍されてる六人組で、派手で陽気で無国籍なサウンドが何とも気持ちいいのだ。
 そのかぼちゃ商会が東横線の幾つかの駅の商店街を練り歩くというので、早速同行取材を申し込んだ。快く取材許可をいただけて、僕は天気のいい春の日に菊名駅へと繰り出した。
 時間よりも早めに着いたので、少し駅前を散歩することにした。西口周辺を歩き回り、今度は東口に行こうと階段を下りていく。──すると、駅前のバス停の脇に何だか怪しい人が立っていた。
 派手なスーツと真っ赤なベレー、サックス抱えて携帯電話と喋ってるサングラスの男。どう見てもただ者じゃないその人に声をかけてみたら、やっぱりかぼちゃ商会のメンバーの丸山さんであった。──なんでも、電車の中に楽器を置き忘れ、慌てて取りに行ってたために彼だけ現地集合ってことになったんだそうだ。
 その後他のメンバーの方とも合流できて、僕らは陽気な演奏と共にぞろぞろと移動していった。──この日は横浜市長選挙の投票率アップのためのキャンペーンだったので、そのスタッフの方々も一緒である。かぼちゃ商会を先頭にマスコットキャラクターの着ぐるみやらプラカードやらが続き、軽快な音楽にのせて選挙への参加を呼びかけるのである。それに出くわした駅前商店街の人達も、さぞびっくりしたことだろう。
 床屋で散髪中のおじさん達がぽかんと見送り、とんかつ屋から出てきた店員さんがぱっと笑顔に変わる。バンジョーの新名さんが投票所に行って下さいねーと声を上げ、アコーディオンの田ノ岡さんがノスタルジックな旋律を奏でる。看板娘の純さんが鐘と小太鼓で派手に盛り上げ、車輪付きのウッドベースからは岩原さんが渋い低音を響かせる。車の中から手を振る人には大太鼓の牧さんがにっこりと微笑み返し、行列の後をついてくる子供達の前ではサックスの丸山さんが踊り出す。──その光景は底抜けにハッピーで、一緒に歩いていた僕もとても幸せな気分になれたのだった。
 ふと見ると、選挙関係のスタッフの人達のタスキには「明るい選挙」なんて書かれている。──そりゃもう、これだけ明るかったら言うことないよなあ。
 てなわけで、話は次回に続きます。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp