第31回「サレジオ教会のカメラマン」(1998.5.1)



 東横線の都立大学を降りてゆるやかな坂を上り、環七を越えて学芸大学方面に歩いていくと、閑静な住宅地の中に十字架と鐘塔が見えてくる。白い壁にステンドグラス、立派な扉の洋風建築──ここは、有名人の結婚式なんかで有名なサレジオ教会なのだ。
 休みの日などに通りかかると、教会内ではミサや結婚式が開かれてることがある。道沿いの扉が開かれて新郎新婦のご登場なんてこともあるので、散歩のついでに覗いてみるのも楽しいんじゃないだろうか。
 学生時代、僕はこの教会でカメラマンをつとめたことがある。──バイト先の先輩がサレジオ教会で結婚式を挙げることになり、ビデオの撮影係を仰せつかったのだ。ご祝儀ついでにバイト料を奮発してくれるというので、自前のカメラと三脚を担いで馳せ参じたのである。
 何せ厳粛な教会式だから、事前にカメラマンへの諸注意というプリントを渡され、別室で係の人から説明を受けた。その後で教会内の所定の位置に三脚を据えて式の始まるのを待ったんだけど、教会の中にいると自然に背すじが伸びるような緊張感を覚えたもんである。
 祭壇の上に設けられたステンドグラスの色合いが実にきれいだったので、撮影はそのアップから始めた記憶がある。ズーミングでぎりぎりまでアップにして、そこからゆっくり引いていって式の模様を捉えるのだ。──記録物の撮影の時はズーミングを多用するのは良くないってのが基本なんだけど、ついつい使いまくっちゃった僕なのであった。
 式の後は二次会のレストランに移動して、引き続きそっちの撮影である。そしてそれも終わると、僕は長い撮影テープを編集してダイジェスト版を作成した。──最初は撮影テープそのままでいいよって話だったんだけど、ギャラをはずんでもらったので特別サービスのおまけをつけてみたのである。
 おいしい場面を繋いで三分程度にまとめ、BGMに映画「アラジン」のテーマを流していっちょあがりである。甘い音楽のおかげでいい感じに仕上がり、僕は花婿さんにそのテープを手渡した。趣味で自主映画作りをやってたせいで、そういうのは得意なのである。
 ところがこれが、予想以上に好評だったのである。──親戚にも配りたいってことで大量にダビングを頼まれ、どっさりとあるテープを前にひいひい言いつつ働くハメになっちゃった僕であった。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp