第3回「洗足池のボート漕ぎ」(1995.11.1)



 池上線の洗足池駅を出て歩道橋を渡ると、やたらに大きな池が広がっている。その名もずばり、洗足池。昔、偉いお坊さんがその池で足を洗ったことからの命名だそうだ。
 池のほとりには貸しボート屋があって、意外と安い値段で手漕ぎボートや足漕ぎボートを借りることができる。休日ともなると家族連れやカップルで賑わうこの池、平日は結構すいているのでのんびりするには絶好の場所である。周りに緑は多いし、鴨(この池の鴨は素潜りの時間がやけに長い気がする)や亀(大きくなったミドリガメと思われる)が泳いでるし、のどかでとても気分がいいのだ。春になると満開の桜も楽しめる。
 天気のいい日のお昼頃なんかは、お昼ごはんと飲み物を持ってボートに乗るのがお勧め。池の真ん中までオールを漕いで、後は風に吹かれながらランチとしゃれこむのだ。デートコースとしてもなかなかいいんじゃないかと思う。
 かく言う僕も、何度か利用したことがある。大学の授業をさぼった時や、アルバイト(奥沢のあたりで働いてるのだ)の昼休みなんかに友達の女の子とお弁当や缶ビールを持ってボートに乗るのだ。平日のお昼時にそうやってのんびりしてると、なんだかとても贅沢な気分になれる。
 ところがある時、間抜けな失敗をしでかしてしまった。今でもちょっと気になってるので、恥ずかしいけどここに書いてしまおうと思う。
 手漕ぎボートに二人で乗る場合、二人で向かい合うような形で座る。で、カップルで乗る場合、だいたい男の方がオールを握る。その時も僕がオールを漕ぎ、二人で昼食を取ったりビールやジュースを飲んだりして一時間ほど過ごした。ここまではのどかで楽しいお昼時である。
 その後、時間になったのでボートを返し、公園をぶらぶらと散歩していたのだが、ふとトイレに行きたくなった。で、トイレに入った僕は大変なことに気づいた。−−ズボンのチャックが、全開だったのだ!
 するってえと僕は、ボートに乗ってる間じゅうずっと、社会の窓を開け放っていたのだろうか? もしかして、その僕と至近距離で向かい合っていた彼女は、否応なしにそれが目に入ってたんじゃなかろうか?
 あれからしばらくたつけれど、その答えは未だに謎のままである。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp