第28回「三歩野橋へ散歩して」(1998.2.1)



 先日、読者の方から一枚の地図をいただいた。田園都市線たまプラーザ駅の北西から東横線綱島駅のあたりまでを流れる早渕川流域のイラストマップで、裏には川の歴史なども記されている。カラーマップには橋の名前や豆知識も載っていて、見てるだけでも楽しい地図である。
 実はこれ、早渕川を愛する市民の方々による、「早渕川をかなでるマップ」という手作りマップなのだ。発行元はずばり、「早渕川をかなでる会」。流域の自然観察や史跡巡り、水質調査やクリーンアップ作戦などをやっているサークルなんだそうだ。
 その地図を眺めていて、面白い名前が目に入ってきた。「三歩野橋」と書いて「さんぶのはし」──綱島駅の西、早渕川と鶴見川の合流点に程近い所にかかっている橋である。
 こういう名前を見ると、その命名の由来について考えてしまう。三歩野橋ってからには三歩で渡れるんだろうかとか、それじゃちょっと短いから幅が三歩なんじゃないかとか、将棋の歩が三枚並んでる野原なんじゃないかとか、いろいろ想像してしまうのだ。じっと考えてても分からないから、実際に見に行ってみることにした。もちろん、取材のお供は「早渕川をかなでるマップ」である。
 ところが、綱島駅前の町中を散歩してるうちに道に迷ってしまった。歩き回ってやっと川に出たと思ったら、そこは早渕川じゃなくて鶴見川である。──まあしかし、川まで出れば持参のマップが役に立つ。僕は早渕川と鶴見川の合流点を目指してのんびりと歩き始めた。
 土手の道では、子連れのお母さんが鳥に餌をまいている。最初はハトかと思ったのだが、よく見りゃハトよりカモメの方が多い。満潮の時はこの辺まで潮が満ちてくるとかで、風もないのに上流に向かってさざ波が立っている。すぐ近くってわけじゃないけど、綱島ってのは海の気配を感じる場所なのであった。
 マップを頼りに歩いていくと、やがて三歩野橋が見えてきた。長さも幅も三歩以上はありそうだし、周りも野原ってわけじゃない。実物はゆるやかな曲線とライトグリーンの色合いがきれいな橋なのであった。
 なんでも、三歩野橋の「さんぶ」ってのは「三分の一」の省略形らしい。中世の御家人が相続のために所領を三つに分けたことに由来した名前なんだそうだ。──しかし、街角の橋から中世の歴史が勉強できるとは思わなかったなあ。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp