第27回「東京日和の西太子堂」(1998.1.1)



 竹中直人監督の「東京日和」という映画は、タイトルの通り東京のあちこちの風景を描いている。ゆるやかなテンポの中に気持ちのいい映像が連なっていく作品で、スクリーンを眺めながらとてもいい気分になれた。映画の中にはビデオで見ればいいやってのもあるけれど、「東京日和」は映画館の大画面で見られて良かったなーと思える作品である。
 さて、そんな作品の中で、町並みの中を緑色の路面電車の走っていくシーンが何度も出てきた。言うまでもなく東急世田谷線で、どうやら主人公夫婦は西太子堂の辺りに住んでいるという設定のようである。──その風景がなかなか素敵だったので、先日取材がてらロケ地を探しに行ってみた。
 世田谷線の西太子堂駅は住宅地の中にひっそりと佇んでいるような駅で、近くには小さな公園もあった。映画の撮影はこの公園の方から行われていたようで、そこから見える小道と線路の感じがなかなか趣深い。舗装されていない道の脇から植木が枝を伸ばし、その横を昔ながらの路面電車が通り過ぎていくのである。
 僕はそこに自転車を止め、世田谷線の車両が通り過ぎていくのを眺めていた。路面電車はゆっくりと走り去り、木の葉が風に揺れて音をたてる。空も晴れてるし、何だか心和むひとときであった。
 映画の中でも、奥さん役の中山美穂がこの小道を歩いていくシーンは実にいい雰囲気だった。──それにしても、ある風景を一番いいアングルで切り取る技術はさすがである。風景というのは見る時のちょっとした角度で表情を変えるものだけど、映画には一番いい表情が収まっていたような気がする。
 ところで、映画の中には番地表示のプレートが何度か出てきたんだけど、確かそこには「西太子堂4─1」なんて書かれていたと思う。だけど実際には、その番地にはキャロットタワーがででーんとそびえているのだ。──単なる見間違いだったのか、それともわざと違う住所を使ったのか、どうも不思議である。意図的に変えたのなら、何故わざわざ実際の住所を使ったんだろう?
 余談ながら、以前僕は大井町線の某駅のそばで竹中監督をお見かけしたことがある。──赤ちゃんを抱いて誰かの車を見送ってらしたんだけど、そうしているだけで何ともいえない雰囲気があったのを覚えている。才能あるクリエーターというのは、人とは違うオーラのようなものをまとってるのかもしれないなあ。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp