第25回「三軒茶屋で雨宿り」(1997.11.1)



 今回の「東急各駅散歩」は、地上百二十メートルからお届けします。──今僕は、三軒茶屋のでっかいビル、キャロットタワーの展望ロビーにいるのである。
 天気のいい秋の午後、自転車で世田谷通りを走っていた僕は突然の雨に見舞われた。雨の中のサイクリングは少々危険が伴っちゃうので、ちょいと雨宿りをしようかとキャロットタワーに飛び込んだというわけである。
 平日の午後だけあって、周りには年配のご婦人や子連れのお母さん達のグループが目立つ。大学生風の女の子達が使い捨てカメラで写真を撮り合っていて、学校帰りの女子高生は何故か全員ソフトクリームを食べている。仕事の話をしてるらしいサラリーマン達の横を子供達が駆け抜けていき、お母さん達はお喋りに花を咲かせてる。──何というか、気軽に寛げる感じの展望ロビーなのであった。
 ロビーというだけあって、四角いソファーも用意してあるしちょっとした喫茶室もある。南側と西側には大きな窓があり、そこから見える景色を解説した金属板も用意してある。──そして僕は、他の用事で持ってきていたミニスケッチブックを取り出し、窓の外を眺めながらシャーペンを動かしているのだった。
 西の空に突き出たビルは、世田谷ビシネススクエアだそうだ。用賀の辺りは他に大きいビルがないからやけに目立つ。手前に目をやれば、二両編成の東急世田谷線が走っている。緑色に塗られた車体はおもちゃみたいに見えて、何だか微笑ましい眺めである。
 ビルの谷間を伸びていく世田谷通りは片側だけ渋滞していて、その奥に見える環七もやっぱり混んでいる。──環七と世田谷線が交わってるのがあのへんだとすると、緑がこんもりと繁っているあそこは豪徳寺の辺りだろうか。
 そんなことを考えながら窓の外を眺めていると、けっこう楽しく時間を過ごすことができる。都心や観光地にある展望台に比べると、ここから見える景色は身近なものが多いから生活感覚で楽しむことができるのである。──あそこにあるカレー屋がうまいんだよなあとか、前にあの辺りのアパートに住んでたんだっけなんて思いつつ外を眺めるってのも、なかなかいいもんだなあと思う。
 さて、そんな感じでこの文章を書いたりイラスト用のスケッチをしたりしていたら、いつの間にか雲が割れて太陽が顔を出した。──ここからだと、夕焼けもきれいに見えそうである。

  • 一覧に戻る

    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp