第24回「何だか謎の久が原の城」(1997.10.1)



 実はこの「東急各駅散歩」、少し以前からインターネットで公開されている。僕のホームページにバックナンバーの文章なんかを載せているんだけれど、ある日そのインターネット版の読者の方から奇妙な情報が寄せられた。
 池上線の久が原駅から少し歩いた場所に、何故かお城があるというのだ。住宅地の中に城がそびえ、大きな門の所にはナポレオンの石像があるらしい。──何じゃそりゃと思いつつ、僕は早速取材してみることにした。情報提供者の方と一緒に久が原界隈を散歩するのである。
「こんにちわー」
「あ、どうも初めまして。竹内です」
  久が原駅の改札口で待ち合わせた僕らは、のんびりとお喋りしながら歩き出した。途中で目についたパン屋さんをスケッチしたり、その店で買い物したりしながら進む気楽な散歩である。
「そこの神社、お祭りなんですねー」
「あ、あそこの木、もう柿がなってる」
「もう秋ですもんねー」
 んなこと言いつつ歩いていくと、ふと目についた小道があった。両側を塀に挟まれた細い道で、入口の所には「久が原出世観音」なんて書かれている。
「出世の神様なんでしょうかね?」
「ちょっと入ってみましょうか」
 小道の奥には本堂があって、中の観音様は御簾に隠れている。とりあえずお参りしてスケッチなんぞをしていると、地元のおじさんが僕に話しかけてきた。
「ここ、元は料亭の敷地でさ、伊藤博文のお妾さんが観音様を祀ったらしいよ」
「へー、そうなんですか」
「近くに証券会社の寮ができてさ、その時に塀とかをきれいにしてくれたんだ」
 そこでおじさんと別れ、僕らは先に進んだ。──そして、見たのである。
「うわー、本当にお城ですね、こりゃ」
「言った通りでしょ?」
「本当にいますね、ナポレオン。──あっちの屋根のはアレキサンダーかな?」
「シーザーじゃないですか?」
「どんな人が住んでるんですかねー?」
「そもそもこの建物自体が謎ですよね」
「うーん。謎ですねー」
 僕らはお城の門でああだこうだと話し合った。そして謎を解くため、近所の主婦の方に尋ねてみることにした。
「つかぬことうかがいますが、あのお城みたいな建物って、何なんですか?」
「──ああ、あれはね、居酒屋のチェーンの社長さんのご兄弟の家ですよ」
 ……ふーむ、そうだったのかあ。
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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp