第21回「大林映画と大井町」(1997.7.1)



 大井町って駅は、どこの出口から外に出るかでかなり印象が違うなあと思う。
 大井町線から外に出る改札は一つだけだけど、接続したJR大井町駅のホームは池上通りをくぐる感じで北側と南側に出口がある。東急と直角に交わってるのは北側で、乗換口と東口と西口がある。
 東急の改札や西口は池上通りに面していて、車やら歩行者やら信号やらヨーカドーやら、何だか賑やかで忙しげな印象がある。東口の外の商店街は活気の中にもちょっと懐かしい風情があって、南口は駅ビルに丸井に阪急と、デパートの林といった趣である。──何も知らずに三箇所の写真を見たら、同じ駅だとはとても思えないんじゃないだろうか。
 僕はこの駅を通学時の乗換駅にしていた時期があって、時間が余るとよく駅の周りを散歩したもんである。大きな通りから少し曲がるといろんなお店が並んでたりして、なかなか面白いのだ。古本屋やペットショップを冷やかしたり、昔ながらの洋食屋さんでグラスワインを飲みつつご飯を食べたりしてればあっという間に時間が過ぎていったもんである。
 そんな散歩の中、妙に気になる映画館があった。大井武蔵野館ってところなんだけど、いつ見ても特集物のプログラムを組んでいたのだ。「黒澤明特集」とか「クレージーキャッツ特集」とか、いかにも通好みって感じの古い邦画がかかっていることが多かった。
 でもそういう場所って心ひかれる反面で何だか気後れしちゃうもんで、小心者の僕は中に入ったことはなかった。一度行きたいなーとは思いつつ、何だかんだと今日に至ったのである。
 だけどそれも、どうやら今年限りになりそうだ。──七月二十七日から八月三十日までの企画は「大林宣彦特集」で、大林監督のほぼ全作品が一挙に上映される予定だと聞いたからである。
 僕は『青春デンデケデケデケ』という映画を見て大林映画のファンになった。凝り性なもんで一人の作家に入れ込むとその人の全作品に触れたくなるのだが、『デンデケ』以前の作品となるとビデオで見ることはできてもスクリーンで見る機会はほとんどなかった。そういうファンにとって、こういう特集を組んでくれる映画館ってのは本当にありがたい。
 そんなわけで、今年の夏は大井町で尾道を満喫できそうである。『転校生』に『時かけ』に『さびしんぼう』、『ふたり』に『あした』にと、考えただけで楽しみだなっと。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp