第20回「九品仏のフルーツティー」(1997.6.1)



 大井町線の九品仏駅の改札を抜けて左を向くと、九品仏浄真寺に向かう参道が伸びている。このお寺の境内や墓地はとっても広く、緑も豊かで気持ちいい。所々にベンチやテーブルもあるので、天気のいい日にお散歩したりお弁当を食べたりするにはもってこいである。のどかで落ちついた空気の中、心がほっと安らぐような時間を過ごすことができるのだ。
 で、お参りして和んだ後にお勧めなのがウェルバンという喫茶店。参道の脇にある交番の辺りからひょいっと脇道に入ったところにある紅茶屋さんである。
 住宅街の細い道を歩いて小道を覗き込むと、いろんな草花に囲まれたお店が目に入ってくる。映画「時をかける少女」に出てきた深町君の家を思わせるような外観で、入店前にして四季折々の花が楽しめるのだ。──そして中に入れば、セイロン紅茶とフルーツティーが楽しめるのである。
 透明なガラスポットの中に、紅茶と共に十種類近くのいろんなフルーツ。ウォーマーのキャンドルに長いマッチで火をつけると、何とも言えない良い香りが漂う。カップに注いで口に運べば、紅茶と果物とが絶妙にミックスされた奥深い味わいが広がる。──このフルーツティーを初めて飲んだ時、僕はちょっとした感動さえ覚えたもんである。
 そのおいしさを文章で表現するのはとても難しいけれど、この味を真似たお店が日本各地にあるってことでも分かってもらえるんじゃないかと思う。元はウェルバンの奥さんのオリジナルレシピなのだが、フルーツティー用のガラスポットを購入すると作り方を教えてもらえるのだ。案外、世間にはそのお弟子さんの味を知ってるって方も多いかもしれない。
 さて、このフルーツティー、二人分から注文できる。大きなポットで作られるので、二人以上でもたっぷりと楽しめるのだ。日替わりの手作りケーキや独特なピザ、自家製シロップを使ったアレンジティーなんかもあるし、もちろんストレートティーだって充実してる。お休みの日(月曜火曜が定休日)と営業時間(一応、十一時から四時)には気をつける必要があるけれど、九品仏に行ったら是非とも立ち寄っておきたいお店である。
 ちなみに僕は、フルーツティーを飲み終わった後にポットのフルーツをつつくのが大好きである。どんな果物が入ってたのか確かめるのも楽しいし、ブランデー漬けの巨峰が紅茶で煮込まれたのなんて、そりゃもう美味いんだから。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp