第19回「下丸子のミュージュカル」(1997.5.1)



 目蒲線の下丸子駅を下りると、目の前に大田区民プラザという文化施設がある。この中には五百人以上も収容できる立派なホールがあって、ここで五月の三日と四日に「チェンナムの夢」というミュージカルが公演される。
 実はこれ、以前このコラムの代官山の回の取材で訪れたダンススタジオのミュージカル劇団「ミクロコスモス」の旗揚げ公演なのだ。取材が取り持つ縁てなわけで、沿線新聞の記者さんと一緒にその稽古風景を見学させていただいた。
 劇団員のほとんどは小中学生の女の子で、稽古場の雰囲気も何だか華やかである。おまけにどの子もしっかりした演技を見せてくれていて、稽古場の隅で見ているだけで引き込まれてしまった。
 いわゆる「子役」って感じの演技じゃなくて、素人目に見てもちゃんと表情が生きているのである。三十坪ほどの稽古場には十数人の女優さん達(一人男の子もいたっけな)がいたのだけれど、それぞれ場面に応じていきいきとした表情を浮かべ、楽しげに動き回っていた。
 演出や振付の先生方は、彼女達に子役としての演技じゃなく、まず舞台俳優としての演技を求めているんだそうだ。ブロードウェイから脱却してアジアを舞台にしたミュージカルを目指すため、今回の「チェンナムの夢」の設定は東南アジアである。−−いろんな意味で、キャストからもスタッフからも創作ミュージカルの作り手としての熱意が伝わってきた今回の取材なのだった。
 練習が終わった後、記者さんが女優さんの一人にインタビューを始めた。僕はというと、イラスト用のスケッチなんぞを描きつつ二人の会話にふむふむと耳を傾けていた。
 印象的だったのはラストの一言。「将来の夢は?」って質問に対して、彼女ははにかみながら口を開いた。「今みたいに、舞台に立ち続けていたいです」
 そう答え、明るい表情で微笑む彼女は−−何というか、すごく格好よかった。十代半ばにして自分の進みたい道を見つけ、しかもその道をしっかりと歩き出してるなんて、なかなかできるこっちゃないよなーと思ってしまった僕である。
 そんなわけで、今度下丸子で上演されるミュージカルはなかなか期待できそうです。この文章を読んだ時にはもう終わっちゃってたって人もいるかもしれないけど、ご安心あれ。八月には東京・神戸・広島などを回っての夏休み公演も決定してるんだそうです。−−すごいなあ。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp