第18回「上野毛駅と空飛ぶ自転車」(1997.4.1)



 大井町線の上野毛駅の近くには環状八号線という大きな道路が通っていて、線路はそれをくぐってちょっとした谷間のようなところを走っている。この辺りには坂やカーブが多いため、道や線路は何だか立体的な感じになっているのだ。結構緑も残ってるし多摩川を見渡せる場所もあるので、大通りを外れて散歩やサイクリングってのも楽しいもんである。
 先日、自転車でこの辺を走ってたら面白いことがあった。−−ゲームセンターで見かける自転車ゲームらしき物体が、いきなり僕を追い抜いてかっ飛んでいったのである。よく見りゃトラックの荷台に積んであっただけだったのだが、自転車型の機械が猛スピードで横を走ってく光景はなかなかシュールであった。
 僕の見間違いでなければ、多分あれはプロップサイクルというゲームだった。TV番組でも使われてたゲームで、空飛ぶ自転車に乗って空中に浮かぶ風船を割っていくっていうやつである。ファンタジックな3D映像や自転車で大空を駆け回る感覚がすごく気持ちよくて−−実は僕、あのゲームが大好きなのだ。
 去年のことだけど、初めてプレイした時は結構感動的だった。コインを入れてサドルに座り、ペダルをこいで空に飛び立った瞬間、風が吹いてきたのである。
 見ると、目の前の画面の下に送風口があってそこから風が吹き出すようになっている。仕掛け自体は単純だけど、何も知らずに風を感じた時はやけに新鮮で嬉しかった。ゲームでそんな感覚を味わうなんて、実に久しぶりのことである。
 テレビゲームは主に視覚と聴覚で楽しむメディアだけれど、そこに自転車こいで風を感じるって要素が加わるだけで、身体感覚も深まり楽しさ倍増って気がする。−−考えてみりゃ、僕が自転車を好きなのも風や身体感覚を楽しめるからなのかもしれないなあ。
 ゲームってのは非日常を楽しむ仮想体験なわけだけど、やっぱり実際の体験や日常の感覚とシンクロする方が楽しさも増すと思う。今のところ架空の町って設定のようだが、これだって実在の風景を使った方が面白いんじゃなかろうか。
 新宿の高層ビル群やNYの摩天楼を自転車で飛び回るなんて、考えただけでも楽しそうである。上野毛駅まで東急線と競争し、環八の車の列を飛び越えてワンダーエッグや多摩川上空まで突っ走る、なんてきっと面白いと思うんだけど。
 これをお読みの業界関係者の方、いつかそんなゲームを出して下さいねー。

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    竹内真 Mail: HI3M-TKUC@asahi-net.or.jp